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イベント報告

慶應義塾創立150年記念 環境シンポジウム

「地球環境 夢プロジェクト」

2008年5月11日(日) 10:00〜16:10

慶應義塾大学 三田キャンパス 西校舎ホール


参加方法 入場無料、どなたでもご参加いただけます。事前申込みが必要です。
主催 慶應義塾 福澤諭吉記念文明塾
協賛 東日本電信電話株式会社
後援 朝日新聞社

5月11日(日)、三田キャンパス西校舎ホールにおいて、創立150年記念シンポジウム「地球環境 夢プロジェクト」を開催しました。本シンポジウムは、高校生、大学生など次代を担う若者をメインターゲットに、義塾の環境問題に関する研究・取り組みを伝え、彼らが行動を起こすきっかけとなることを目指して企画しました。当日は、約1,000名が参加し、環境問題に携わる義塾の各分野の研究者が発信するメッセージに熱心に耳を傾け、質疑応答では積極的な意見交換も交わされました。

主催者挨拶(慶應義塾長 安西 祐一郎)

福澤諭吉の言葉に「文明は人類の進歩なり」というのがありますが、環境問題は、次の時代により良い環境を残すために、我々が知恵を絞り、夢を持って取り組むべき課題の1つです。環境問題は世界各国で考えていくべき大きな問題をはじめ、食べ残しをしない、物を大切にする、不要な電気は消すといった身近な問題など、あらゆるところに存在します。
飛行機のパイロットに上空から見た夜景が世界一きれいなところはどこかと聞くと、東京と答えるそうです。光がずっと広がっている東京の夜景・・・果たしてこれはいいことなのか、悪いことなのか、考えないといけません。
今日は慶應義塾の環境への取り組みをみなさまと共有し、一緒に考える1日にしたいと思います。そして我々、これからも環境問題について、夢を持って取り組んでいくことをお約束します。

基調パネルディスカッション:「慶應義塾からの環境メッセージ」

パネリスト
梅垣 理郎  慶應義塾大学 総合政策学部教授(ヒューマンセキュリティー、国際政治)
大沼 あゆみ 慶應義塾大学 経済学部教授(生物多様性保全、環境経済論)
川嶋 弘尚  慶應義塾大学 理工学部教授(ヒューマン・インターフェース、交通)
佐藤 春樹  慶應義塾大学 理工学部教授(エネルギー環境システム)
清水 浩   慶應義塾大学 環境情報学部教授(環境工学、電気自動車)

コーディネーター
荻野 博司  朝日新聞 地球環境プロジェクトリーダー
和気 洋子  慶應義塾大学商学部教授(国際経済、地球環境経済)

和気 これから行われる7つのプロジェクトのプレゼンテーションに向けての基調になるものや、みなさんの考え方を教えてください。
梅垣 インドシナ3国でフィールドワークをしています。ここはベトナム戦争中の枯葉剤散布によって、環境が劣化した地域が多く、今でも人体に悲惨な結果を生んでいます。しかし、枯葉剤、つまりダイオキシン汚染によって人にどんな悪影響が起きるのか解明されているにもかかわらず、当事者である彼らはその内容を知らないわけです。そんな現実を見て、枯葉剤だけではなく温暖化や化学肥料汚染など環境問題の解決には、高度な科学的な知識を一般の人達にわかりやすく伝える必要があることを強く感じています。
大沼 地球上には数千万種の生物がいますが、今、年間4万種が絶滅しているといわれています。これは恐竜が絶滅した時代に匹敵する早さです。恐竜は隕石が原因で絶滅しましたが、現代は主に乱獲や自然破壊など経済活動が原因です。 我々が行っているフィールドワークからも、地球にやさしいバイオ燃料生産するために、熱帯雨林を伐採しているという現状を見てきました。その結果、環境問題を考えるためには、目の前にある環境を解決するだけでなく、その他の環境へも配慮するなど、もっと大きな視点から経済政策を考えていく必要があると考えています。
川嶋 この20年間の技術革新の結果、自動車の排気ガス(NOxなど)はほとんど問題がなくなりました。驚かれると思いますが、今売られている車は吸い込む空気よりもきれいな排気ガスを出しています。次の問題として、エネルギー消費、つまりCO2の問題が出てきたわけです。私達はCO2が環境に悪いことを知っているのに車を使います。それならば車に対する発想の転換が必要ではないか。1日に数キロしか乗らない車に現在の性能が必要なのか。どこかに妥協点はないのか。こんなことを探るために、私達は新しい移動手段を提案し、地域で実証実験をしています。
佐藤 エネルギー消費量を削減できて安価な製品を作ると、たくさん売れますが、売れすぎると逆にエネルギー消費量が増えていくという悪循環が起こることに気がつきました。抜本的に解決するには、エネルギーを使わない社会に転換していく必要があるのです。
CO2の問題はエネルギー資源を何に頼るかという問題です。温暖化と海面上昇については、森林の伐採や、太陽熱を浴びた都会の地表が大気を温めてしまう街作りに問題があると感じています。そのような背景から最近私は、森を増やして水の循環を作って、水で地球を冷やす必要性を主張しています。
清水 温暖化問題は、化石燃料を他のエネルギーに置き換えればある程度解決できます。代替エネルギーとしては太陽電池があり、主に日本の努力ですでに実用化されています。太陽電池には、地球上のたった1.5%の面積の設備で世界中の人々にアメリカ人並みのエネルギーを提供できる能力があります。これで現在排出されているCO2の65%が解消できます。問題はこのような技術がすでに確立されているにも関わらず、従来の技術との置き換えが進んでいないことにあります。今後の課題は完成している技術をどう社会に根づかせるか、つまり技術と政策の融合だと感じでいます。
和気 私自身も個々の環境問題について、独立して解決の糸口を求めればすむものではなく、いろいろな分野との連携が必要だと感じでいます。
荻野 昨年、ジャーナリズム論という講座をこの大学で担当しました。また今の話を聞いても應犠義塾は幅の広いところだと感じています。社会的にもCO2、生物の多様性、水など大きな問題がたくさんあります。今日もそれぞれの分野の方がここに集まっていますが、今後は各分野の壁を越えてどう横串を通すかが、大事だと感じています。

和気 慶應義塾創立150年ということもあり、折に触れて福澤の精神をどう生かせばよいか、私達は考えてきました。その中で研究の成果を実学的なアプローチで生かしていくことが、大学の使命だと感じています。みなさんは次の世代やさらに次の世代に何を伝えていくべきとお考えですか。学生に対する期待などもお聞かせください。
梅垣 学生達に対しては、語学力や専門を超えられる柔軟な思考を身につけ、多様な世界を十分に吸収してもらいたいですね。人間の多様な生活に触れてこそ、科学技術を生かせる実践性を持つ人間になれると思うからです。
大沼 企業が経済活動をしながら環境問題も考えていくのが当たり前の時代になりました。環境問題はビジネスに役立つ学問になってきています。それだけ社会に根付いてきたということです。ですから、大学在学中にしっかり環境問題に関心を持つことが、社会で活躍する土台になるのではないでしょうか。さまざまな目的を持つ学生にもっと積極的に環境問題に携わってほしいと思います。
川嶋 授業で交通渋滞について取り上げたところ、渋滞は当たり前で解決する必要性を感じていない学生がいることがわかりました。この例のように、問題を問題と感じない認識のギャップを、教育を通して埋めて、若い人達の共通意識として根付かせていくことが我々の課題だと思っています。
佐藤 私自身、専門外の会議で意見を言うと、冷たい雰囲気を感じることがあります。専門性が細分化しすぎて、素人の素朴な疑問に答える仕組みが欠けているのです。学生達には専門性だけでなく、広い分野に関心を持つことを期待しています。社会全体としては、他の人の意見をよく聞くことのできるシステムを作ることが大事だと考えます。
清水 最近は「あまりいい社会にはならない」とネガティブな気持ちで社会に出て行く学生が多いように思えます。私は「これから、もっといい時代になる」ということを伝えたいです。環境問題を勉強した学生達は、社会に出てもすぐに学んだことを生かせていないようです。しかし世代交代が進めば、ある時一気に彼らの活躍の場が増え、世の中を変えてくれるのではないかと期待しています。
荻野 地球温暖化問題の揚げ足取りや、環境問題への難クセも多く見られますが、そうゆう議論だけでは行き詰ってしまう。多くの生活者が、冷静な判断を下し行動できるよう、大学の皆さんに正しい知見の発信を期待するとともに、私たちも、メディアとしてしっかり報道していきたいと考えています。

和気 個々の問題に対する自然科学の知見の蓄積はとても大事です。同時に社会科学系の学者が加わって、不確実性やリスクを鑑み意思決定をすることが重要だと感じています。教育という観点からは、ものを見て、聞いて、判断し、決断・履行するという人間の本質的な力を養うことが、遠回りのようであって近道ではないでしょうか。
最後に、長いスパンで考えた時の地球温暖化に対する先進国の役割や、政府や企業や研究者の使命についてご意見をいただきたいと思います。
川嶋 地球環境問題の論点は、今まではマクロな視点だったのですが、これからはミクロな視点が必要になります。しかしミクロな視点については評価方法すら確立されていないものがたくさんあるので、大学としては学問としての方法論を開発していく必要性を感じています。
佐藤 私は温暖化問題とCO2の増加はイコールでなく、むしろ森林破壊の方が重要ではないかと思っています。問題は一面的ではありません。マスコミのみなさんには、温暖化問題をCO2の削減だけの議論に終わらせるのではなく、将来をどのような世界にしたいか、建設的な夢を語ってほしいと思っています。
清水 これからの課題は、政策と技術を結びつけることでしょう。すでにいい技術はたくさん誕生しています。これら日本が持つ技術をどう世界に広めていくかという研究を塾内で広く行っていきたいと思っています。
梅垣 最大の問題は科学者のある種のセクショナリズムで、なかなか合意が得られにくいと言われてきましたが、この敷居はかなり低くなってきました。次に問題になってきているのが専門家と一般の人との合意です。専門家からの提案を普通の人が生活の中に積極的に取り入れていくこと、またそれを推進する土台作りが必要だと思います。
大沼早急に省エネや代替エネルギーへの転換を進めていく必要がありますが、生活水準を下げることはできません。長期的には経済と両立した環境保全が重要です。それにはCO2を排出する機器の価格を上げるとか、環境にいい製品を識別できる仕組みつくるといった社会全体の経済活動に新しい仕組みを構築していく必要があると考えています。
荻野この問題はバランスの選択だと思います。専門家には多くの手法を提示してもらい、我々マスコミはそれをバランスよく伝える。そして根っこに必要なのは、健全な市場と健全な民主主義であると思いました。

第1セッション:地球環境資源を考える

慶應義塾中国環境プロジェクト−大気汚染・土壌改良から砂漠化防止CDMへ!

早見 均 慶應義塾大学 商学部教授

中国・東北部にある瀋陽市康平県はカルチン砂漠に接しているため、砂で大きな被害を受けていました。そこで地元の住民と協力を得て、防砂のための植林事業を1999年に始めました。幅100メートル、長さ100キロメートルの“緑の長城”を作ることを目標に始まり、目標の半分を達成したところです。
現在は京都議定書で定められたCDM(クリーン開発メカニズム)の認可をめざしています。植林した木の成長度合いを測ってどのくらいのCO2を吸収しているかを測定し、それに見合ったCO2排出権を得ることができれば、慶應義塾はそれを企業に売ることができます。これが認可されれば日本初、そして世界でも珍しい大学発のCDM事業になります。
植林を続け、森林を管理し、成長した木のCO2排出権を売り、その利益でさらに植林を進める・・・“ 緑の長城”の夢は世代を越えて、志とともに受け継がれていくことになるのです。

成熟した循環型社会の形成にむけて

山本 雅資 慶應義塾大学グローバルセキュリティ研究所 特別研究助教

我々は1年間に20億トンくらいの物を消費し、そのうち6億トンを廃棄しています。この中には適正に運搬・処理されれば資源となるのに、廃棄されているものがたくさんあります。そこで我々は廃棄物をもっと効率的に運搬すれば、よりリサイクルが進むのではないかという視点から、静脈物流※に着目した研究を行っています。
この問題はいままで解析されてこなかったため、まずは現状把握から始めました。その結果、動脈物流※は、在庫を抱えたくないというニーズからスピードが重要視された結果、非常に高度なシステムになっていること。一方静脈物流は、スピードが重要視されていないこと、また動脈物流の運賃が過大なため適正に運搬されずに廃棄されていることなどがわかってきました。また動脈物流においては、製品を運搬した後の帰りの便が有効に活用されていないこともわかってきたため、動脈物流と静脈物流をうまく組み合わせることで運賃負担の少ない静脈物流ができれば、資源の有効活用が進むのではないかと考えています。
※「動脈物流」と「静脈物流」
動脈は血管に酸素を運び、静脈は使用済みのものを回収する人間の血管になぞらえて、普通の製品を運ぶ物流を「動脈物流」、廃棄物を運ぶ物流を「静脈物流」と呼ぶ。

第2セッション:エネルギーと暮らし

持続可能なコミュニティへの革新の可能性

川嶋 弘尚 慶應義塾大学 理工学部教授

現在、学部・研究科の枠を超えたメンバーと外部企業との協力で、安心・安全でエネルギーと環境負荷の少ない活気ある社会(=コ・モビリティ社会※)を検討しています。具体的には、自動運転や遠隔操作が可能な一人乗りの小型の電気自動車を考案しました。これは1日の走行距離が数キロなら、家庭のソケットで充電ができます。また、太陽電池で充電をすることで、既存の電力をほとんど使わなくてもいいと考えています。実際にいくつかの都市でこれを使用してもらい、感想をもらい改良を重ねる実証実験を行っています。
※コ・モビリティ
「コミュニティ」と「移動(モビリティ)」から、川嶋教授が作った造語。

中野 諭 慶應義塾大学 産業研究所研究員

私は経済学の観点から、新しいシステムを導入する際の評価方法について研究をしています。今日は電気自動車の導入によるCO2排出量の評価についてお話します。
CO2排出量を評価するには、走行時だけでなく製造時も考慮する必要があります。1台の車はたくさんのパーツからできていますし、組み立てにエネルギーを消費します。各パーツはさらに別な原料を加工したものです。このように全パーツを原材料までさかのぼり、全工程でのCO2排出量を調べると、ガソリン車のCO2排出量が約5トンなのに対し、電気自動車は約15トンと、圧倒的に電気自動車の方が多いのです。一方走行時については、ガソリン車はガソリンを燃やすことで、直接的にCO2を排出しています。電気自動車は走行時のCO2排出量はゼロですが、電力を作るときに排出しています。このような過程をトータルでみると、電気自動車の方がCO2排出量が少ないことがわかりました。今後、太陽電池などより環境に負荷の低い電力が普及すれば、製造過程でのCO2排出量が減り、電気自動車はよりクリーンで環境保全効果の高い移動体になると考えています。

宇宙太陽光発電衛星(SPS)によるCO2削減計画 ― 宇宙からエネルギーを!

佐々木 進 (独)宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究本部教授

宇宙太陽発電衛星(SPS)は太陽発電システムを宇宙に作ろうというものです。太陽は私達が使用している全エネルギーの15,000倍ものエネルギーを発していますので、太陽エネルギーは人類のエネルギー源として非常に有効といえます。
これを実現するには、大きくは4つの技術が必要になります。1つ目は太陽電池です。現在宇宙で使っている一番大きな太陽電池は宇宙ステーションにありますが、その1万倍の規模の太陽電池が必要です。2つ目がマイクロ波を利用して地球にエネルギーを運ぶ技術、3つ目が大型構造物(宇宙ステーションの100倍程度)を作る技術です。最後が輸送コストを安価にすること。これには何度も使えるロケットの開発が必須です。
これらの技術はどれも小規模なら完成しています。大規模化、低コスト化をしていくことで、実用化されていくものと考えています。

朝倉 啓一郎 流通経済大学 経済学部准教授/慶應義塾大学 産業研究所研究員

私からは、宇宙太陽発電衛星(SPS)のCO2負荷についてお話します。先ほどの中野先生と同じように、SPSを作るための材料、そのまた材料・・・とさかのぼっていき、すべての過程で排出されるCO2量を計算します。
宇宙空間へ送り出すための輸送機や、軌道上へ移動させるための輸送機も必要です。そのため、多量のCO2を排出するのではないかという予想のもと計算をはじめました。結果、輸送機の燃料から非常に多くのCO2が排出されてはいますが、1キロワットあたりのCO2排出量は32グラムで、既存の化石燃料系の発電システムに比べて非常に低く、原子力発電と同レベルであることがわかりました。CO2計算からわかったこととして、1つめは輸送機の燃料をどう作るか、そしてもう1つは、SPSを作るためのエネルギーをどうするか。おそらくは、SPSの電力を使ってSPSを作るという発想が必要になってくるのではないかと思います。

第3セッション:国際協力の現場から

感染症の爆発に直面する国際社会にわれわれはどう対応すべきか?

竹内 勤 慶應義塾大学 医学部教授

世界には肺炎やインフルエンザ、AIDS、下痢、結核、マラリア、はしかなどの感染症で死亡する人がたくさんいます。日本で発生したO157のような小さな集団発生までを含めると、たった5年間に星の数ほどの感染症が発生しています。感染症が起きる背景として、病原体や宿主である人間の問題もありますが、人口増加、安全な飲料水の不足、気候異常、蚊などの生息地域の拡大、内戦、難民、人口の都市集中化、自然災害などがあげられます。要するに我々の社会活動は全て、めぐりめぐれば感染症の温床になると言えるのです。
地球温暖化と感染症の発生についてはよくわかっていないことも多いのですが、気温が上昇すれば蚊やマラリア原虫などの発育が促進され、世代交代が早まり異常増殖します。同時に遺伝子の組み換えが起こりやすくなり、病原体が突然変異をしやすくなると考えられています。
感染症を考える時にもう1つ考えないといけないのが、鳥インフルエンザなどによる生物テロです。対処法がないため、現在のところ全く手の打ちようがありません。そこで慶應義塾では学部間を越えたネットワークを作り、対応策の研究を開始しました。何があっても対応できる自信はまだありませんが、なんとかしたいと思っているところです。

国際環境協力の視点と方法

厳 網林 慶應義塾大学 環境情報学部教授

森林を伐採する、草地を農地に変える、人口の集中により地下水源を使うなど、人為的な原因から地球はどんどん砂漠化しています。すでに地球の40%の土地が乾燥化し、30%以上の人が乾燥化した地域で暮らしています。そこで我々は、日本のNPO法人緑化ネットワークと一緒に、2000年から企業の支援や市民ボランティアの参加を得て、中国内モンゴル地区で植林を進めています。2001年には学生にも砂漠化の現実を知ってもらうために、研修プログラムを開始。現地の人と一緒に植林することを通して、地球環境に対する人間の影響を考えてもらっています。
中国のことわざに「木を育てるのは10年、人を育てるのは100年かかる」とありますが、社会全体の考え方を変えるには長い時間が必要です。日本で暮らしているだけだとなかなか気がつきませんが、食事1つをとっても世界のいろいろなところで作られているように、我々の暮らしは世界に支えられているのです。現地での植林活動を通して、このような社会の仕組みを知ることに大きな意義があると考えています。参加をきっかけに、日本にいてもなかなか実感できない世界の状況を少しでも感じでほしいと考えています。

クロージング・セッション:そして未来のキャンパスへ【慶應義塾からの提言】

佐藤 春樹 慶應義塾大学 理工学部教授

私達は安心・安全で自然環境と調和して暮らす社会の構築を目指し、大学だけでなく多くの異業種の研究者と協力して『KLASI※プロジェクト』を進めています。
例えば、発電に伴う排熱を他の用途に転用すれば、エネルギー消費量の約半分は節約できます。『KLASIプロジェクト』では、このように今までは捨てていたエネルギーを効率よく活用するマネジメントシステムの構築や、地域に役立つ防災情報の提供、目に見えない空気中の二酸化炭素濃度の“見える化”など、様々な課題に取り組んでいます。
これら新しいイノベーションを実践していくために必要なことは、客観的なデータと大学と産業界のコミュニケーションです。そこでこの2点について、慶應義塾の取り組みをご紹介します。
※KLASI(Keio Leading Amenity&Security Infrastructure:慶應義塾先導的快適・安全環境基盤ビジョン)

西 宏章 慶應義塾大学 理工学部准教授

省エネの必要性は頭ではわかっていても、常に電気を消したり、エアコンの設定温度に気をつけたりし続けることは大変なことです。そこで我々は、ITを利用してエネルギー消費を賢く制御する方法を探っています。
例えば、温度センサーや超伝導などを活用して、温度の高いところや日が当たるところなどを計測し、集めたデータを元に、より不快度の高い場所の空調を優先的に入れ、他を消すといった効率的な制御方法を模索しています。この技術が応用されれば、無駄なエネルギー消費が減り、一人ひとりのおかれた状況にあわせた最適な環境を作り出す『オーダーメード空調』が可能になります。
また、CO2センサーを使い、様々な環境下のCO2濃度を計測し、データを構築しています。こちらは現在、CO2濃度から室内にいる人数を類推すると、実数とほぼ一致するほどにまで精度が上がっています。現在、こういったシステムを家庭や学校、コンビニエンスストアやレストランなどに導入し、賢いエネルギー制御の実用化に取り組んでいます。

小池 康博 慶應義塾大学 理工学部教授

私が中心になって行っている『ギガハウスタウンプロジェクト』は、『KLASIプロジェクト』との連携プロジェクトです。現在慶應義塾の各キャンパスは、40ギガビット/秒という世界一ともいえる高速の情報網でつながっています。この環境を活用し、産業界と提携して大学の研究成果を社会に還元しようとしています。今までに三田と日吉をつないで、遠隔医療やe-ラーニングなどの実証実験を重ねてきました。また、病院のITシステムとして導入された例や、バーチャルな映画館として活用された例など実用化も始まっています。
このシステムが広く普及すれば、例えば、真夜中に具合が悪くなった場合、フルハイビジョンモニターのスイッチを入れると、そこにホームドクターが現れて、「顔色が悪いですね」といった会話をし、その場で診察を受けることも可能になります。
テクノロジーは研究のためにあるのではなく、暮らしに安心と安らぎを生むものでなくてはいけません。そういう意味で、『ギガハウスタウンプロジェクト』と『KLASIプロジェクト』は、アウトプットこそ違えども、慶應義塾が目指すものという観点からは、同じであると考えています。

  

(ライター:粕谷 知美)