福岡会場 2007年8月19日(日) 「地域におけるスポーツの可能性」

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2007/10/2 | 講演会の模様が、西日本新聞に掲載されました。

新たなスポーツ文化を創造し、地域活性化と健康づくりを!

(※この記事は、9月22日付け西日本新聞朝刊に掲載されたものです。)

Floor_3 8月19日、福岡市・天神のアクロス福岡で慶應義塾創立150年記念講演会「学問のすゝめ21」が開かれた。現代社会が抱えるさまざまな問題や課題をテーマに全国13の都市で開催するシリーズ講演会で、福岡でのテーマは「これからの地域社会とスポーツ」。
池井優・慶應大名誉教授ら3人の講師が、地域に根差したスポーツ文化の経済効果や医療への応用など、スポーツをさまざまな視点で分析。高齢社会と地域医療への新しい考え方などを参加者が熱心に耳を傾けた講演会を振り返る。

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■あいさつ
学びを深める手助けを
 慶應義塾常任理事 工藤 教和氏

Kudo_3 創立150年を前に、慶應義塾はさまざまな事業に取り組んでいます。その目的は、創立者である福澤諭吉の志を21世紀の現代社会に引き継ぎ、発展させること。福澤の志とは、『学問のすゝめ』にもあるように、日本が独立を維持するには個人が独立して生きる力を持つことが必要であり、その力の源泉は学ぶことにあります。
 現代では、情報の取捨選択のための学びも求められます。福澤も『学問のすゝめ』第十五編で「真の世界に偽詐多く、偽の世界に真多し」と説いています。真実を見抜くためにも学びはますます重要度を増し、しかも複数の視点が求められています。
 この講演会は、その学びの世界を深める手助けをしたいという思いで開きました。そして慶應義塾は、これからも「独立」と地域社会との「協生」を兼ね備えた学塾であり続けたいと思います。

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■講演 「生涯現役社会を目指して」
能力発揮できる仕組みを
 慶應義塾大学商学部教授 清家 篤氏

Seike_5 いま、スポーツに関心が集まる背景の一つに高齢社会がある。日本では現在、人口に占める65歳以上の高齢者が20%で、5人に1人がお年寄りという世界一の高齢大国だ。しかもこれは通過点にすぎず、2014年には4人に1人、35年には3人に1人の割合にまで増えるという予測がある。
 しかしこうした状況は、日本経済の成功の証しともいえる。戦後すぐの1947年と現在を比べてみれば、生活水準と医療技術の進展は、男性50歳、女性54歳だった平均寿命を、2007年までにそれぞれ78歳、85歳にまで高めた。60年間で1年に0.5歳ずつ延びた計算だ。これほど高齢化が急速に進んだ国は世界のどこにもない。
 一人の女性が生涯に生む子供の数を示す合計特殊出生率も、4.4人から1.3人に激減した。かつて米国の経済学者ゲイリー・ベッカーは「経済発展段階では、子どもは一種の投資財だ」と表現した。子どもが労働力として見込まれたからだ。しかし少子化の今では、一人の子どもに高度な教育や多額の費用をかける保護者が増えている。もはや子どもは投資財ではなく消費財となっているのだ。
 生まれる子どもが減り、お年寄りが長生きしたため、高齢化は加速した。長くなる人生を楽しむために必要なことは、年をとってもそれぞれの意欲と能力を発揮できる生涯現役社会であることが大切だ。

▼マラソン型の職業人生へ
 幸いにして日本人は先進国の中でも高齢者の労働意欲が高い。その意欲を阻害しないためにも、定年退職制度の見直しなど社会の仕組みを変えることが必要だ。
 若いときに能力開発した後、定年まで突っ走る短距離走型の職業人生でなく、65歳や70歳まで働き続けられるマラソン型への転換が必要だ。

▼基礎体力養え友達も増える
 また、家庭や地域の一員として活躍するためには、生活人としての自分への投資も重要。ここで役立つのがスポーツだ。個人の豊かさはお金と暇がどれだけあるかで測ることができる。その豊かさをスポーツに投資すれば、健康を維持するための基礎体力が養えるし、人生を楽しくする友達も増やせる。しかも余暇時間を有効に使うという点で、投資であると同時に消費でもある。
 スポーツは顔をつき合わせる関係の中で行われることから、地域社会と密接な関係を築ける。自分の持っている技能で子どもたちに指導すれば、活躍の場はもっと広がる。そうやって「職」から「住」へ重心移動していくことが大切だ。
 特に福岡は気候も温暖で、スポーツ仲間を見つけやすい人口規模がある。高齢者が元気に過ごせる環境があるのだ。長い人生を楽しむためにも、ぜひスポーツに目を向けてもらいたい。

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 せいけ・あつし 1978年、慶應義塾大学経済学部卒。同大大学院商学研究科博士課程修了。同大商学部助教授を経て、92年から現職。この間ランド研究所研究員、経済企画庁経済研究所客員主任研究官など歴任。

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■講演 「アスリートから学ぶ-スポーツ動作の生体工学的解析とその応用-」
重心には左右の足で差
 慶應義塾大学看護医療学部・大学院健康マネジメント研究科教授 大谷 俊郎氏

Otani_4 これからの地域社会とスポーツのかかわりを考えたとき、「見る」スポーツや「する」スポーツに加えて、「学ぶ」スポーツも重要。アスリートの動作を生体工学的に解析すれば、その動作メカニズムが実際の医療現場で応用したり、けがの予防に役立てられるからだ。

▼複雑な動きをするひざの骨
 例えば、野球の試合中における右ひざじん帯損傷。ひざの骨は一見、屈伸など単純な動きをするように見えるが、実際はねじれたり滑ったり複雑な動きをする。この場合は、ひざが内側に入ってつま先が外を向いた瞬間の損傷。どういうメカニズムでけがをしたかを解明すれば、効果的な治療につなげることができる。
 では、具体的にスポーツ動作の解析にはどのような手法があるのか。最近よく使われるのは、広範囲で速い動きにも対応できる三次元計測だ。複数の赤外線カメラが被験者の体にはられたマーカーの空間的位置を測定し、関節の動きや重心の位置などを解析。さらに、床に設置された反力計が被験者の足底に作用する力を測る。これで関節にどんな力がどういう方向に働くかが分かる。
 次の例は、テニスのマリア・シャラポワ選手の強さの秘密でもあるスプリット・ステップ。相手からの返球に反応する直前、両足で軽くジャンプして次の動作に備える動きだが、どのような効果があるのか。本学の学生たちがテニス経験者5人を対象に、三次元計測で動作の解析を試みた。
 解析で、ステップ時にはひざの屈曲角度が約6度深くなり、屈曲までの時間が0.2秒短縮されていることが分かった。ジャンプによって自分の体重を着地の反動に替え、より速くひざを屈曲させて地面をけりやすくし、1秒間の移動距離を約50センチも伸ばしていたのだ。三次元計測だからこそ、表面の動きだけではなくて、内部の骨の動きまで推定できるようになった。この三次元解析は、中高齢者の生活や医療にも応用できる。現在、ひざの痛みを抱える中高齢者は国内に少なくとも1千万人おり、65歳以上の女性の7割が変形性ひざ関節症で悩んでいるという。
 関節症は左右対称性で両ひざに痛みが走るが、本当に悪いのは右ひざと左ひざのどちらなのか。さらに、レントゲン写真では左右同じ症状を見せても、三次元解析すれば、力を入れるポイントが左右で違うことが分かる。

▼効果的治療で手術の回避も
 患者19人を対象に、自然な立ち方をしてもらったところ、重心には必ず左右差があった。それは利き足ということでもなく、中には痛む方の足に体重をかける人さえいた。三次元解析によって本当に悪い方の足を突き止め、バランスの取り方を指導して効果的に治療すれば、不必要な手術も回避できるのだ。
 アスリートと中高齢者は一見正反対の関係にあると見られがちだ。しかし生体工学的な手法によって両者の関係を向き合わせることもできそうだ。

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 おおたに・としろう 1980年、慶應義塾大学医学部卒。医学博士。同大助手や英国リーズ大学リウマチリハビリテーション研究所研究員、都立大久保病院整形外科医長を経て現職。ひざ関節外科やスポーツ整形外科を専門として活躍中。

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■講演 「地域とプロ野球チーム-大リーグと日本-」 
企業PRから地域密着へ
 慶應義塾大学名誉教授 池井 優氏

Ikei_3 九州には今年の甲子園でも大活躍した高校がたくさんあり、福岡にはプロ野球チームのソフトバンクホークスもあるなど、野球とのつながりが深い。そこで、福岡と米国の大リーグを例に、野球と地域の結び付きについて考えたい。 
米国では1876年、大リーグの起源となるプロリーグが誕生した。ボストン・レッドソックスやフロリダ・マーリンズなど、チーム名の上には必ず都市名か州名が付き、地域対抗の色彩が濃い。ブルックリン・ドジャースでは黒人選手を初めて入団させ、下町での人気を集めて庶民に密着した球団づくりを進めた。企業名を冠してチームを宣伝媒体とする日本の球団とは対照的だ。
 しかし58年、ドジャースとジャイアンツが西海岸へ移動し、ニューヨークの地元球団がヤンキースのみとなったことから、新たな球団が誕生した。それがメッツ。都会っ子を意味するメトロポリタンズを略した球団名メッツは、地域の人々が名付け親だ。チームカラーも移転した2チームのカラーをミックス。試合では、それまでタブーとされていた場内へのプラカード持ち込みを許可するなど、アンチ・ヤンキースファンをも取り込む地域密着戦略を進めた。2000年にはついにワールドシリーズでメッツ対ヤンキース戦が実現、地元は熱い声援にわいた。
 このメッツの歩みに似ているのが、福岡のプロ野球団ホークスだ。もともと福岡には西鉄クリッパーズと西日本パイレーツがあったが、両者は1951年に合併し、西鉄ライオンズに再編成された後、本拠地を埼玉に移転した。地元球団の不在を寂しがった福岡は、大阪にあった南海ホークスに注目し、福岡ダイエーホークスとして移転に成功した。
 メッツと同様、ホークスは徹底した地元密着を進める。球団の華として、世界のホームラン王・王貞治氏を4代目の監督に起用。戦力としても熊本出身の秋山幸二選手や長崎出身の城島健司選手ら地元選手を獲得し、地元に愛される球団づくりを目指した。そして99年に日本シリーズ優勝、2000年にはパ・リーグ二連覇を果たす。

▼ファンが喜ぶ華やかな演出
 2005年からは球団売却によりソフトバンクホークスとなったが、福岡・九州の人々の熱い応援ぶりは変わらない。球団が地元密着というホークスの伝統を受け継いだからだ。松中信彦選手や川崎宗則選手、杉内俊哉選手ら九州出身の選手を多く起用し、チームと地域をつなぐサポーターズクラブも結成。試合では「小久保裕紀選手応援デー」や「花火二倍デー」、「史上最大の風船デー」などの演出で、ファンを盛り上げる一方、隣接する商業施設ホークスタウンと合わせて総合エンターテインメントを提供している。
 企業対抗型から出発した球団が、地域に根差したチームとして地に足がついてきた。あとは今秋、王監督の胴上げが見られれば、福岡全体が熱狂するだろう。その日を期待するばかりだ。

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 いけい・まさる 1959年、慶應義塾大学法学部卒。64年同大大学院法学研究科博士課程修了後、米国コロンビア大学に留学。法学博士。専門は日本外交史や極東国際関係史。大リーグ通としても知られ、日本スポーツ学会代表理事も兼務。

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