金沢会場 2008/5/18(日)「環境問題を考える -サスティナブルな社会をめざして-」

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2009/3/9 | 講演会の模様が、北國新聞に掲載されました。

(※この記事は、2008年5月29日付、北國新聞に掲載されたものです。)

「危機感の共有」から「実践」の時代へ

 慶應義塾が創立150年を記念して全国13カ所で展開している講演会「学問のすゝめ21」の金沢会場が5月18日、金沢市文化ホールで開催されました。「環境問題を考える―サスティナブルな社会をめざして―」をテーマに、俳優で気象予報士の石原良純さん、独立行政法人建築研究所の村上周三理事長、星野リゾートの星野佳路社長の3氏が講演したほか、弁護士の長澤裕子さんをコーディネーターにパネル討論が行われ、地球環境を守り、サスティナブル(持続可能)な社会を目指すための考察と提言がなされました。

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■講演 「空を見よう」
次世代に美しい空を残したい
 俳優、気象予報士 石原 良純さん

2  台風や集中豪雨などを扱う天気予報は、人命や財産に直結する重要な情報であり、ウェザーキャスターの立場では、正確で分かりやすい情報提供を第一に心掛けています。加えて、空の楽しさを伝えることで、視聴者が天気や自然に興味を持ち、地球環境問題を考えるきっかけづくりができればと願っています。

 日本は四季があり、自然も豊かなので、誰もが「最近、何か変だぞ」と実感するようになってきているようです。昨年8月16日には岐阜県多治見市と埼玉県熊谷市で気温40.9度を記録、74年ぶりに日本最高気温が更新されました。熊谷市の場合は、真夏の熱射に加え、ヒートアイランド現象による首都圏の熱気が南寄りの風で運ばれてきたのが原因です。ヒートアイランド現象を生んだのは人間の営みです。こういう事実を知り、何が起こっているかを記録していくことが地球温暖化対策の第一歩だと思います。

 IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は「気候ターゲット2度」という数字を掲げ、産業革命時以降の地球の平均気温が2度上がると、二度と後戻りできないと警告しています。現時点ですでに1.2度上がっており、最短では約20年後に限界に達すると予測されています。平均気温が3度上がれば、地球上の動植物の40%に当たる百万種が絶滅するといわれています。もうすぐそこにまで危機が迫っているのです。

 石油・天然ガスや原子力の代替エネルギーをどこに求めるかも重要な課題です。風力発電や太陽光発電が期待されていますが、それだけでまかなえるとは到底思えません。大量の情報を入手できる携帯電話やパソコンの普及により、われわれは身近な損得ばかりに目が行きがちになっています。しかし、もはやそんな時代ではありません。

 近くばかりでなく、遠くを見る。つまり、空を眺め、この美しい空を次の世代に残す方策を真剣に考えなければなりません。一日に一度は空を見上げてみてはいかがでしょうか。

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いしはら・よしずみ 1962年神奈川県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。在学中の1982年、映画『凶弾』に主演し、芸能界デビュー。さまざまなドラマ、映画、舞台、バラエティーに出演する一方、1997年に気象予報士資格を取得し、ウェザーキャスターとしても活躍中。

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■講演 「サスティナブル建築のすすめ」
省エネ建築を促す環境性能評価
 独立行政法人建築研究所理事長 村上 周三さん

3  ローマクラブは「現状の人間の営みが続けば、地球は2050年ごろに破局を迎える」と警告し、英国の スターン報告は「すぐに環境対策を実施しなければ、世界のGDPの20%が失われる」とリポートして います。日本においても、世界においても、建築分野からの二酸化炭素排出量が全体の約40%を占めて います。環境問題における建築の責任は極めて大きいのであり、なんとしてもサスティナブル建築を進めなければなりません。

 そうした観点から、日本では産学官が連携して、CASBEEという建築物総合環境性能評価システ ムを設け、その普及を通じてサスティナブル建築の推進を図っています。CASBEEはレストランや ホテルを格付けしているミシュランと同じように、建築物の環境性能を可視化して格付けするもので、 具体的には、環境品質と環境負荷の二つの要素を物差しにして、一つ星から五つ星までの五段階で評価 する体系になっています。これを導入することにより、施主や設計者に対して、より優れたサスティナ ブル建築へのインセンティブを与え、自発的な省エネ建築の推進を促すことができます。

 時代の要請にマッチしたCASBEEは急速に普及しています。自治体や民間企業で数多くの導入事 例があり、すでに13の自治体は建築確認申請にCASBEEの評価を義務づけています。大阪市や名古 屋市では、四つ星以上の建築物に補助金を出す制度を導入していますし、川崎市ではCASBEEの評 価を表示しないマンション販売広告は認めていません。マンション建築の融資に際してCASBEEの 評価を求める環境金融も始まっています。サスティナブル建築に向けた建築市場の変容が現実に起きつ つあるのです。省エネ建築の推進と並行して、ゼロエネルギー住宅・オフィスへの取り組みも進められ ています。サスティナブル建築に終わりはありません。

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むらかみ・しゅうぞう 1942年愛媛県生まれ。1967年東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修士課程修了。工学博士。2001年6月~2008年3月、慶應義塾大学理工学部教授。社団法人日本建築学会前会長ほかの要職を歴任し、2008年4月から独立行政法人建築研究所理事長を務める。

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■講演 「サスティナブルなリゾート」
量から質への発想転換が必要
 株式会社星野リゾート 代表取締役社長 星野 佳路さん

4  星野リゾートは軽井沢で「星のや軽井沢」を経営し、山代温泉の「白銀屋」をはじめ全国14カ所でリ ゾート施設の運営や再生事業を手掛けています。「星のや軽井沢」では独自の水力発電所と、地中熱を つかった地熱システムにより、エネルギーの75%を自給しています。

 1970年代に別荘文化の全盛期を迎えた軽井沢は、以降、観光客が押し寄せるようになり、大衆化しま した。その結果、ブランドイメージが劣化したため、1992年ごろからサスティナブルな観光への変革を 目指して、エコツーリズムや軽井沢の魅力に立脚したリゾートを模索するようになりました。

 軽井沢のブランドイメージ調査では、第一イメージが「自然」から「ショッピング」に変わり、「高 級」「あこがれ」といった本来のイメージが停滞しています。軽井沢を訪れた人の満足度は、すでにそ れほど高くなくなっているのです。

 2004年の観光地ブランド力調査では、京都が圧倒的に強く、軽井沢も依然、高いポジションにあるも のの、「また行ってみたい」と思わない人が増えています。今、絶好調なのは沖縄で、対して熱海は深 刻な状態ですし、新婚旅行のメッカだった宮崎もかつてのような賑わいは見られません。

 私は「観光地のブランド力は放置しておけば衰退していく」という仮説を立てています。現在は満足 度が高くても、大衆化すると人が押し寄せ、満足度の低下が避けられません。観光地のブランド戦略としては、コンセプトに固執し、観光客のイメージを裏切らないことが大切で す。コンセプトに合わないものは、たとえ基準や条例を満たしていても受け入れるべきではないと考え ます。

 最も重要なのは、5年後ではなく、20年、30年、さらには100年後の集客を最大化するために、当 面の集客を調整する勇気を持ち、量から質への発想転換をすることです。また、資源を維持する仕組み を持ち、住民志向ではなく顧客志向を徹底することも必要なのではないでしょうか。

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ほしの・よしはる 1960年長野県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、米国コーネル大学ホテル経営大学院で経営学修士 号を取得。1991年株式会社星野リゾート代表取締役社長に就任。軽井沢で「星のや軽井沢」を経営する 一方、破綻リゾートの再建や温泉旅館再生事業にも取り組む。

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■パネルディスカッション サスティナブルな社会をめざして
消費者の意識啓発がカギに
コーディネーター 金沢弁護士会所属弁護士 長澤 裕子さん

1  3氏の講演後、石原さんと星野さんをパネラーに、「サスティナブルな社会をめざして」と題したパ ネルディスカッションが行われました。コーディネーターを務めたのは金沢弁護士会に所属する長澤裕子弁護士です。

 長澤さんは、「サスティナブル」の概念を初めて提唱したのは、1984年の国連の「環境と開発に関する世界委員会」であることを紹介した上で、環境ISOの認証企業数では日本が世界一であることを踏まえ、「企業は環境対策にまじめに取り組んでいるが、消費者レベルにまで浸透していないことが問題ではないか」と指摘しました。

 これを受けて星野さんは、ドイツの取り組みを紹介しながら、「小学生に対する啓もうが消費者の意識を高める上で実効性が高い」と強調し、石原さんも「親は子供の目を意識せざるを得ないので有効だと思う」と同調しました。

 石原さんはまた、さまざまな数値や現象から環境破壊が加速度的に進んでいることがうかがえるとして、「兼六園の風物詩である雪吊りも必要なくなるかもしれない」と、石川県民に分かりやすい例えを引いて、個々が生活の中で環境対策に取り組む必要性を指摘しました。

 星野さんは「もはや『環境対策が必要』と言っている場合ではなく、目標とルールを定め、次のステ ップに進むべき」と実践の必要性を唱え、長澤さんも「企業や消費者が真しに取り組めるように、政府が統率力を発揮して明確な目標を掲げてほしい」と訴えました。

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5 ながさわ・ひろこ 1996年慶應義塾大学法学部法律学科卒。2004年司法試験に合格し、1年半の司法修習を経て、2006年金 沢弁護士会に登録。現在は坂井法律事務所で弁護士として勤務し、行政訴訟、建築瑕疵、交通事故、相 続、離婚問題等幅広い案件に対応している。

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