名古屋会場 2008/2/2(土)「アートのある生活-感性をみがく-」

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2007/11/30 | 舘野泉さんミニリサイタルの曲目解説を掲載しました。

■ 間宮芳生:風のしるし・オッフェルトリウム(舘野泉に献呈)

日本を代表する作曲家。数多くの合唱曲やピアノ曲等を作曲し、舘野氏によって初演された作品も多い。この作品も舘野泉に献呈されている。

『風のしるし』の風とは、アメリカ先住民族ナヴァホ族の創世神話で語られる風の神のことである。ナヴァホの人々は、この地上に生きるものすべての誕生の時、生命を与えてくれるのは風の神であると信じてきた。
第1曲プレストは、風の神の小指から吹き出すつむじ風のイメージ。
第2曲の冒頭のモティーフは、軽井沢の山のコテージを囲む森に来て朝・夕にうたう鳥のことば。
第3曲、第4曲は、1979年に作曲したギター独奏曲『三つの聖詞』の中からピアノ左手用に書き直されたもので、第3曲は風紋、第4曲は体内をひそかに吹く風を体感するというテーマに基づく。
第5曲は、フィンランドの古い民謡で、はじめも終わりもなく旋回するような旋律主題による小さなシャコンヌである。


■ 林 光:花の図鑑・前奏曲集 ピアノ(左手)のために (舘野泉に献呈)

1 ヒメエゾコザクラ
  秋山清「白い花」
2 イヌタデ(あかまんま) 
  中野重治「歌」
3 イヌノフグリ 
  すずきみちこ「いぬふぐり」
4 サンザシ
  ピエール・ド・ロンサール、井上究一郎訳「さんざし」
5 ハス
  与謝野晶子≪漕ぎかへる夕船おそき僧の君紅蓮や多きしら蓮や多き≫
6 ツリフネソウ 
  沖縄歌謡「てぃんさぐぬ花」
7 フキ
  宮澤賢治「林と思想」
8 ノイバラ
  「梁塵秘抄」

「花の図鑑・前奏曲集」は、古今の詩人たちに歌われることによって、独特の光をあびた花々をめぐる、ちいさなエッセー集。その光から出発し、けれども花々の描写ではなく、5本の指の運動から自然に生まれる音の変化を追うことを心がけた。2005年の6月から8月にかけて作曲。

ヒメエゾコザクラ。俗にアッツザクラとも呼ばれてきたこの花を、アッツ島で全滅した日本軍兵士のひとりを憶って詩人は歌う。 ≪ツンドラに/みじかい春がきて/草が萌え/ヒメエゾコザクラの花が咲き・・・・・≫

イヌタデ。あかまんまと呼ばれて親しまれてきた。≪おまえは歌うな/おまえは赤ままの花やとんぼの羽根を歌うな≫という、中野重治の断固としたメッセージのかげからのぞく、ほんとうはとんぼの羽根も歌いたい詩人のジレンマ。

イヌノフグリ。朝鮮戦争がかきたてる第三次大戦の不安のなかで、ひとりの無名の女性が詩を書き、ふしをつけた。≪くにさんは戦争にいった/いぬふぐりを放りつけて行った/手紙もとどかぬ遠くで/くちもきかずに死んだ≫。

サンザシ。中世フランスの大詩人ロンサールの山査子讃歌、≪茂れ さんざし 茂れいつまでも/斧 風 かみなりも 時も/おまえを倒すな≫。

ハス。若き日の与謝野晶子の、破調を駆使した、妖艶な一群の短歌のひとつ。≪漕ぎかへる夕船おそき僧の君紅蓮や多きしら蓮や多き≫。

ツリフネソウ。ホウセンカのほうが一般的な呼び名だが、さらにティンサグヌハナと言いかえれば、なつかしい南島の旋律にのせて歌われるあのことばがきこえてくる。
≪てぃんさぐぬ花や/爪先(ちみさち)に染(す)みてぃ/親(うや)ぬゆしぐとぅや[言うことを]/肝(ちむ)に染(す)みり≫

フキ。向うの霧にぬれたきのこ形のちいさな林へ「わたしの考え」が流れて行って溶け込むのだと。詩人は不思議を考えつく天才だ。≪ここいらはふきの花でいっぱいだ≫。

ノイバラ。中世流行歌謡詞の後白河法皇コレクションともいうべき「梁塵秘抄」のこの一節、鳥羽僧正の作と伝えるこのクニのマンガの原型、「鳥獣戯画」の一葉を見るようである。≪茨(うばら)小木の下にこそ/鼬(いたち)が笛吹き猿奏(かな)で・・・・・・≫。

この曲集を、左手のピアニストとして、私たちのもとへ生還した舘野泉さんに贈る。(林 光)

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