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井口さんにインタビュー

大学在学中に大学や地域を巻き込んだイベント、「ヒヨシエイジ」のプロデューサーを務め、現在は気鋭の「サウンドアーティスト」ととして活躍する井口拓磨さん。文句なしにカッコイイプロフィールを持つ井口さんは、身振り手振りをたくさん交えながら、自分の原体験を熱く語る姿がとても印象的。
進路の悩みを抱える時期に差し掛かっているスタッフ(3、4年)の疑問に対して、プロフィールからは知ることのできない、迷い、悩む姿さえも正直に見せてくださいました。

15歳「花火の下で、自分の音楽を演奏したい」

写真 現在、気鋭のサウンドクリエーターとして活躍中の井口さん。慶應という普通の大学を卒業しながら現在の仕事をはじめられた背景には、花火写真家の福田武さんとの出会いがあった。

洋画家の父の希望であった「絵を描くこと」を辞め、特別に何にも興味を持たずにいた中学生の頃。ふと駅で見かけた福田さんの花火写真に雷が落ちたような衝撃を受けた。その後、福田さんに誘われ、初めて花火大会の撮影現場へ行ったときのことは、

「初めて間近で花火を見たとき、バーンっていう音が胸に、横隔膜にブルブルいって、号泣してしまいました。」

とまるで昨日のことのように、目を輝かせながら語ってくださった。 さらには、福田さんが和太鼓と花火と音楽のコラボレーションを行ったことから音楽に興味を持ち、自分も実際に作曲をするようになる。

しかし、ここで井口さんは苦悩にぶち当たってしまう。

「僕は花火から横隔膜が揺れたり、花火の内側にいるような感覚を味わったのに、自分の作った曲を友達に聞かせても、感動が全く伝わらないんです。」

そこで考えたのが、音楽を専門に学ぶ大学や学校への進学だった。

「でも親父に相談したら、パーン!と殴られてしまって。本当の表現者だったら普通の人を感動させないで何が出来るのかと、普通の大学行って、普通の勉強をして、普通の価値観を持っている人たちの中でお前がどう生きるのか、考えて来いと言われました。」

大学に入ってからは「煙火(=花火)打ち上げ従事者手帳」を取り、実際に花火を打ち上げる側にもなった。花火大会のクライマックスでは真下から花火を見上げ、まるでカーテンのように花火が落ちてくるシーンに立ち会う。花火の光に包まれながら、井口さんは1つのある決意をする。

「“一生に一度でもいい、花火の下で自分の音楽を演奏したい”」

21歳「本当にやりたいことってなんなんだろう」

写真音楽を通じて感動を共有したいという夢は持ちながらも、周囲の雰囲気に流され、大学卒業後は一般企業での就職を目指していた。そんな中、井口さんに再び人生の転機が訪れる。就職活動の際のアピールポイントになればと、気楽な気持ちで訪れたアフガニスタンでのボランティア活動中のことだ。カブール大学の学生の一言が身に突き刺さった。

「『アフガニスタンではどんなに強く思っていても出来ないことがたくさんある。お前は日本で恵まれていて、やりたい仕事も選べるのに、未だにやりたいことを探しているってどういうことだ』と言われました。もう、バッシャーンとガラスを上から叩きつけられたような感じでした。」

帰国後も悩み続けた結論は、音楽を作り続ける、ということ。

「やりたいことをやろうと思ったら苦労するけれど、でもそれは生きる死ぬの問題じゃない、頑張れる環境があるのになぜ努力しないのかとずっと考え続け、とうとう「普通の就職活動はやめた」と決意しました。それからは、オーディションを受けたり、作品のストックを作ったりすることが自分の就職活動になりました。」

卒業間近には教授への一言で、大学から地域を考える「ヒヨシエイジ」というイベントの立ち上げに携わることになる。そしてそのイベントにおいて、念願かなって花火と音楽のコラボレーションが実現した。

「大学の最後に、自分の音楽と花火を融合させるという夢が実現できて、もう大学生活でやり残したことはないと思いました。それからは、音楽一本です。」

現在「枠を超えて、音楽を作っていく」

写真花火と音楽という夢をかなえてから4年、井口さんは今、何を夢として、何を自分の目標として、突き進んでいるのだろうか。

「花火は自分の感動の原点ではあるけれど、花火と音楽を融合させるだけのアーティストで終わりたくなかったんです。花火だけに限らず、もっと広い世界や景色、分野や文化、様々な人たちとの出会いを通して、そこから得たインスピレーションを、自分の表現だけで勝負したいと思い始めました。」

大学を卒業してからは、社会に通用するかもわからない作品を片手に、不安だらけだったと当時を振り返りながら教えてくださった。しかし、30代40代の人生の先輩達が前進して頑張っているのを目の当たりにし、その不安を乗り越えることが出来たという。

「やっぱり今でも自分の作品に対しては不安だし、会社勤めをしている人と比べて自分が惨めに思えるときがあります。だけど、生き方の選択肢が広い今だからこそ、30歳とか40歳までにとかいう自分で勝手に決めた枠を超えて、本当に一生をかけて音楽をやろうという決心がつきました。」

最後に、やりたい事を持っている人たちへ。
「不安を我慢して踏み出してみれば、景色が変わる」

最後に、“かなえたい夢は持っているが、今、その夢へと突き進むべきか悩んでいる”と不安を打ち明ける塾生スタッフに対し、井口さんから温かく、そして熱いメッセージをいただいた。

「モノを作っている方って、誰でも不安を持っていると思うんですよね。だけど、不安を我慢して一歩踏み出してみると、景色もがらりと変わると思うんですよ。」

すぐに結果は出ないかもしれない。しかしとにかく焦らず、真剣に自分自身と向き合っていれば、同じように頑張っている人達との出会いなど、「やっていてよかった」と思える瞬間が来る、と力強く説いてくださった。

「僕はまだまだそういう経験が足りないですけど、その瞬間を信じて頑張ろう、というスタンスが出来たので、音楽をやめたいと思ったり、今だったらまだ再就職できるっていうことは微塵も思わないです。それがこの4年間で培った最大の武器だったと思います。」

吉田 有紀子(環3)
また記事作成にあたり薗 美冬さん(塾員・ライター)にご協力いただきました。

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井口さんに15の質問
1.今のマイブームは何ですか?

小さい海老を飼っています。世話が簡単で面白いですよ。
昔はアントクアリウム(蟻の飼育観察セット)を楽しんでいました。

2.好きな曲は何ですか?

エニグマ氏の『リターントゥーイノセンス』(1992年)です。
癒し系ブームの2000年ごろにはまりました。

3.好きな場所はどこですか?

大桟橋です。
そこで自分の作った曲を聴きなおして、
どう変えるかなどを1人考え直します。
また1人で行ってたそがれたりもします。

4.好きな本は何ですか?

丸山健二氏の『まだ見ぬ書き手へ』
作家から次の世代の作家への指南書です。
昭和の禁欲的な感じがありながら、今ともぶれない所がすごいと思います。

5.尊敬する人は誰ですか?

父です。
社会に出てからやっと対等に話せるようになりました。また悩みも話せるようになりました。 先輩後輩という立場でアーティストとして話してくれるとうれしいです。

6.朝一番にやることは何ですか?

メールとサウンドのチェックをします。
夜に一生懸命作った曲を、次の朝聞くとがっかりです(苦笑)。

7.PCのデスクトップ、携帯電話の待ち受けはどんな画像ですか?

PCは、ナショナルジオグラフィックのHPにて毎月更新される壁紙(入れ替えていく)です。
携帯電話は花火の写真です。

8.好きなものを最後までとっておく方ですか?

はい。一人っ子ならではですね。

9.学生時代は何をして遊んでいましたか?

音楽は遊びと思ってやっていなかったので、遊んでいなかったと思います。

10.学生時代の失敗談を教えてください。

僕にとっての失敗は就職活動をしたことですね。
好きなものは好きと音楽に突っ走っていたら、また違う音楽をやれていたのではないかと思い ます。しかし良い寄り道だったと思います。

11.学生時代に戻れるとしたら何をしますか?

合コンです。一度もしたことがないんです。

12.日本以外に住むとしたらどこがいいですか?

宇宙に住みたい。 最後の夢は月でライブをすることで、死ぬ間際に過ごしてみたいですね。

13.今の仕事をしていなかったら何をしていると思いますか?

普通の会社員、例えば銀行員などをしているんじゃないでしょうか。
どの会社でも自分らしくやっていると思います。

14.人生があと1日しかなかったら何をしますか?

ありったけの花火を集めてきて、どこかでいっせいに打ち上げます。

15.願いが一つだけ叶うなら何を願いますか?

家族が欲しいです。
誰かのために生きてみたいと学生時代からずっと思っています。
1人で感じる感動には限界があり、共有するからこそ倍増するのだと思います。

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かばんの中、見せてください!
編集後記 最初は、はじめてのインタビューを前に、どんな先輩がいらっしゃるのだろう、と期待に胸ふくらみわくわくする一方、緊張のあまり口数が少なくなっていた塾生スタッフだったが、井口さんが教室に現われたとたん、そのかっこいい雰囲気と立ち振る舞いに一瞬にして目を奪われてしまった。そして、井口さんがこれまで歩まれてきた道のりをうかがっていく中で、自分達のこれからの進路を重ね合わせ、知らず知らずのうちに真剣な顔つきになっていった。
井口さんの音楽に対するまっすぐな思いと、情熱を目の当たりにし、夢に向って走り続けることの大切さを改めて教えていただいたと感じている。
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