• 第1回 井口拓磨さん
  • 第2回 柳明菜さん
  • 第3回 菅原潤一さん(現在のページ)
  • 第4回 児玉光也さん
菅原さんにインタビュー

「クモの糸」の世界初の実用化を試み、DNAにデジタルデータを書き込む技術で事業を作る―普通の人では想像すらできないようなことに日々取り組まれている菅原潤一さん。実は、政策・メディア研究科に所属する現役大学院生にして会社の取締役です。なぜバイオに取り組むのか、なぜ学生、研究者にして早くも会社を立ち上げたのか、そして今に至るまで変わらない思いは何か、塾生スタッフに熱い思いを明かしてくださいました。

18歳「冨田先生との出会いと人間の『情報量』」

写真 現在、国際論文に研究成果を発表するだけでなく、自身が研究開発に携わった新技術をもとにベンチャー企業を立ち上げ、経営の指揮も執っている菅原さん。「恐らく僕は、SFCで冨田勝教授に出会わなければ、バイオもやっていないし、会社も立ち上げていないと思います」と語る、SFCでの大きなターニング・ポイントを中心にお話をうかがった。

もともと高校時代からコンピュータに興味を持ち、いずれは映画監督になろうとコンピュータグラフィックなどを勉強するつもりでSFCに入学してきた。しかし、そんな展望に劇的な転換が訪れたのは、「名物授業」と先輩に紹介されて履修した冨田先生の講義『生命システム』だった。

複雑な生命体である人間も、もとはDNAに書かれた30億文字程度の情報からなる細胞たった1つから作られている。CD-ROM1枚に収まってしまう情報量から、「人間」という人間が作れない複雑なものを作り出すそのメカニズムに惹かれた、と目をキラキラと輝かせながら、講義の感想を教えてくださった。

「もう、面白いを通り越して感動してしまって。どういう風に生命は、自分たちを作っていくための設計図の情報を、CD-ROMたった1枚分の情報量に収めているのか。その暗号を解読してやろうと思い、学部1年生の時に冨田先生の研究会に入ったんです。」

20歳「菅原さんと関山さんの疑問」

写真冨田研究会では、新たな出会いもあった。現在、『スパイバー株式会社』を一緒に経営する関山和秀さんとは研究会の合宿を通じて知り合い意気投合、2人でお酒を飲みながら「地球で一番強い生き物って?!」という議論を繰り広げた。

「ライオンは百獣の王なんて言われているけど、象の方が強い。でも、実はスズメバチ1匹の毒は象を殺せるくらいに強いんです。じゃあスズメバチが最強かっていうと、そんなハチを捕食する生物がいる。そして行き着いたのが、クモだったんです。」

さらに調べを進めていくうちに、例えば1cmの太さのクモの糸は、ジャンボジェット機を吊るせるくらいの強度を持っていることがわかった。その強度は、防弾チョッキ等に使用される化学繊維ケプラーの4倍。さらに、衣服として使用する際に必要な伸縮性もナイロンより高かった。

「『これは、次世代の素材として人間社会に役立てることが出来るんじゃないか?』って考えて。」

おぉ、とどよめくインタビュアーに、真剣なまなざしで菅原さんは続ける。調べていくうちに、蚕から繭を作るのとは異なり、肉食動物であるクモに糸を安定して大量生産させるのは難しいことがわかったのだ。しかし、菅原さんたちは諦めない。

「クモの糸はタンパク質でできていて、そのタンパク質を作る情報はDNAに書き込まれています。クモの糸を作る情報(遺伝子)をクモのDNAから取り出して、バクテリアに組み込むことで、クモの糸をバクテリアに作らせる、ってことを考えたんですよ。」

さらに、クモの糸とは別に、DNAを長期記録媒体として使うというアイディアも提案。いくつかの技術的課題を克服した研究成果は国際論文誌に掲載され、海外のメディアにも大きく取り上げられた。

「僕と関山は、学部生時代から「いつか会社を立ち上げたい」と考えていて…。DNAに情報を保存する技術も開発したし、クモの糸も面白いし、この2つを柱にしてベンチャーを立ち上げよう!ということになったんです。」

現在「会社は、僕らの技術で社会貢献するための手段」

写真関山さんと意気投合し、『スパイバー株式会社』を立ち上げた菅原さん。しかし経営に関しては全くの素人。当初、DNAに情報が記録できる技術を使って、例えば遺言のようにメッセージを何億年も残すというビジネスを考えた。しかし現実的には需要が全くなく、事業はすぐに暗礁に乗り上げた。

せっかく立ち上げた会社を潰すわけにはいかないと、必死にマーケティング調査を行なった。すると、産業価値の高い工業利用微生物をターゲットとする窃盗犯罪が企業・国家間でおこっているという問題があり、現在それに対抗するためのソリューションが強く求められていることがわかった。有用物質等を効率よく生産する微生物を開発するためには莫大な予算がかかり、その産業的な価値は非常に高い。そのため、企業・国家間での盗用事件が近年水面下で急増しているのだという。そこで、DNAにデジタルデータを書き込む技術を応用して、工業利用微生物に著作権を証明するタグを組み込む新技術、「CELL-ID™」を開発。現在、特許の出願中だという。

「これからの時代に必要なのは、社会のニーズと自分の研究テーマを結びつけて、研究開発を行っていける人なんだなと、そのとき痛感しました。そしてもう一つの反省点は、会社は社会に貢献するための手段として存在する、という事を忘れかけていたこと。」

噛みしめるように菅原さんは言う。それ以来、自分の好きな研究に傾倒していくのではなく、その研究結果をいかに社会に還元していくかを考えるようになった。

「日本は欧米に比べて、微生物を利用した技術が進んでいます。CELL-ID™が普及すれば、日本の微生物利用技術の国外への流出を防ぎ、日本におけるバイオ産業の健全な発展に貢献できるんじゃないかと考えています。」

とは言え、全ての物事が理想どおりに運ぶわけではない。企業との交渉の厳しさや、技術開発の難しさなど、困難は数え出したらきりがないという。それでも、八方塞の状態をどう抜け出すか、諦めずに粘り強く改善点を考え、乗り越えてきた。

「諦めるポイントは何度もありました。でも、「絶対に辞めない」と最初に決めたことによって、中途半端な気持ちでは見つけられない、生き残る道が見えてくるんです。まだまだ成功には程遠いですが、これからもメンバー一同、一丸となって、困難を乗り越えて行きたいと思っています。」

周囲の期待に応える『エリート』ではなく、周囲の常識を変えてしまうような『革命人』になってほしい、と強いメッセージをくださった菅原さんの目は、まっすぐにこれからの社会を見つめているように感じた。


菅原さんに15の質問
1.今のマイブームは何ですか?

バイク、ですね。けっこう無趣味でヒマなときも研究をしてるんですが、バイクは好きです。ドュカティっていうメーカーのバイクが好きで、休日は関山と2人で箱根とかに走りに行きます。

2.好きな曲は何ですか?

曲はあんまり聴かないんで、この曲!っていうのは無いんですけど、強いて言うならばMr. Childrenですかね。Mr. Childrenの曲全般ですね。

3.好きな場所はどこですか?

鎌倉です。僕の実家があるところなんですけど、山もあって、海もあって、風情もあって、歴史もある。世界で一番良い街だと思っています(笑)。

4.好きな本は何ですか?

リチャード・ドーキンス著の『利己的な遺伝子』です。なんで生命は進化しているのかなど、順序だてて説明している本です。僕がバイオに興味を持ったきっかけの1つだと思います。

5.尊敬する人は誰ですか?

ダーウィンとガリレオですね。世界の常識を変えるような革命を起こした人を、僕は尊敬します。

6.朝一番にやることは何ですか?

えっと、栄養ドリンクを飲みます。僕二度寝しちゃうんですね。だから、1回目に起きたときそれをグビっと飲んで、また10分寝るんです。そうすると次には目がばっちり覚めるんですよ。

7.PCのデスクトップ、携帯電話の待ち受けはどんな画像ですか?

PCのデスクトップは無色です。僕、デスクトップが散乱していてあまりにも汚いんで、見やすい背景にしています。携帯は、実家で買ってる犬の顔です。かわいいです。自慢したいんです。

8.好きなものを最後までとっておく方ですか?

意図的に真ん中で食べますね。最後に食べるとお腹がいっぱいで十分に味わえないし、でも最初に食べちゃうとメインがなくなった気がして寂しいから。

9.学部時代は何をして遊んでいましたか?

大学の学部時代は、2年生のときから山形県の鶴岡で研究を始めたので、そこの山、川、海で遊んでました。

10.今までの失敗談を教えてください。

失敗したことはない…と思いたいです。失敗か成功かはあとになってみないとわからないじゃないですか。だから、失敗の心当たりも1つ2つはあるんですけど、きっと成功につながると信じてます(笑)。

11.学部1年に戻れるとしたら何をしますか?

大学生らしく遊ぶことも考えたんですが、やっぱり研究プロジェクトを立ち上げたいです。学部3年生の時に立ち上げたSPLITSという研究プロジェクトも、あと2年早くやっていたら、もっと羽ばたけたなと思います。

12.日本以外に住むとしたらどこがいいですか?

南の島を買って、自分の王国を作ってみたいです。

13.今の仕事をしていなかったら何をしていると思いますか?

僕はすごく天邪鬼なんで、その時その時、周囲の人があまりやっていないことをやろうと思うはずです。

14.人生があと1日しかなかったら何をしますか?

書きかけの論文があるので、悔いが残らないよう、それを完成させて科学雑誌に投稿したいです。

15.願いが一つだけ叶うなら何を願いますか?

めちゃくちゃかわいくて、優しくて魅力的な女性と出会わせてください。出会いは完全に運ですからね。逆に自分の努力でどうにかなることは、お願いしたくないです。


かばんの中、見せてください!
「菅原潤一さんのかばんの中。」
かばんを見ればその人が見える!?普段の研究活動に、起業されたご自分の会社でのお仕事にと忙しく活動されている菅原さんのかばんの中を見せていただきました。
01関西に行ったときに買った地域限定チョコレート。
02Science誌に掲載された菅原さんの論文。
03研究に、お仕事にと毎日多忙な菅原さんのスケジュール帳。