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学問のすゝめ21 メルマガ

「学問のすゝめ21 メルマガ」では、現在の慶應義塾の「知」を発信するとともに、皆様とともに「学ぶ」楽しさを再発見するきっかけをご提供できればと考えています。

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特集 ポップカルチャーは日本の未来を拓く!? 中村伊知哉教授

書棚には日本の少年少女向けマンガ本がずらりと並ぶ。熱心に眺め、手に取る若者たち。これがフランス、パリの書店で普通に見られる光景だというから驚く。今や世界中で日本のポップカルチャーが熱い視線を浴びている。
「カワイイ」、「マンガ」は世界共通語になった。世界中の若者が日本マンガの登場人物になりきって競うコスプレ・サミットは大盛況。もしかすると、これらも立派な日本文化と言えるのでは? 
今なにが起こっていて、これからどうなるか、日本のポップカルチャー研究の第一人者であり、2008年4月に開設される慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科の教授に就任される中村伊知哉氏に、お話を伺った。 (インタビュー:2007/9/5)

日本のシンボルは「ピカチュウ」?

ご著書「日本のポップパワー」によると、日本のマンガ、アニメは海外でとても大きな反響を呼んでいるとか。

アニメ「ポケットモンスター」は世界67カ国と2地域、「クレヨンしんちゃん」は世界47地域で放映されています。アメリカでの日本アニメの市場規模43.6億ドル(2002年)は、日本からの鉄鋼製品輸入の3.2倍にあたります。アニメの経済貢献は、鉄鋼の3倍というわけです。
マンガの登場人物になりきって競う「世界コスプレサミット」は、2003年から実施されていますが、2005年には愛・地球博で決勝が行われ、熱狂のうちに終了しました。今や日本のポップカルチャーは、文化としても産業としても大変なパワーを持っています。

世界の若者に日本について知っていることを尋ねてみたら、きっとピカチュウやマリオなどアニメやゲームのキャラクターの名前が返ってくることでしょう。日本は、世界中からクールでポップな国だと熱い視線を投げかけられています。
現在、日本の通勤電車で見られる風景は、マンガを読んでいるサラリーマンと、携帯電話を操作する人が半々ですよね。これは日本独特の風景です。他の国では、マンガは子供のもの、携帯電話はビジネスマンのものですから。私はこれこそが日本の強みだと思っています。彼らがポップカルチャーすなわち大衆文化の根っこを支えているんです。

300年前の浮世絵のような大衆の文化だと。

浮世絵の時代から変わっていないですね。日本の文化は、一人の天才がいて素晴らしいものを作るといったタイプの芸術ではなく、大衆の中から生まれて大衆が広めていく。ハリウッドのような天才が集まって作る文化の対極と言っていい。人々にそれだけの力があるのです。技術自体は他の国から取り入れることもありますが、それを使って面白いものを作っていくという個人の能力は驚くほど高いです。
ケータイの女子高校生文字なんかはよい例ですね。また、ネットで発表されるショートムービーやブログも勢いがある。ブログに至っては、現在、全世界で使われている言語を調べてみたら、英語が33%だったのに対し日本語は37%で、英語より多かったという結果もあるほどです。

 

自立的進化を遂げる街、アキハバラ

海外からは、「クールな国ニッポン」という評価を得ているということですが、日本での評価はそこまでいっていないという声もありますが。

日本はもともと自国が持っている魅力をプロデュースするという能力に欠けているところがありますね。でも、例えば秋葉原という街。これは世界に類を見ない成功例だと思います。
最初は無線、家電、パソコンの街として発展しました。この頃までは作り手側がこういう街にしようという意図があったと思うんです。しかし次に、客が自分たちがいいと思う「オタクの街」に変えていった。その結果、ハードとソフトが混在していて、ものすごくバイタリティに溢れた街になった。しかもだれかが意図的にプロデュースした形跡がない。これからもどんどん変わっていく可能性がある。これは本当にワクワクしますね!
来年開設される慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科も、同じようにだれかが「こうしましょう」と上から決めたものではなく、教員と学生が一緒に作っていく感じを大事にしていきたいと思っているんです。

 

トンガった人たちがごちゃごちゃ集まる大学院

メディアデザイン研究科のお話が出ましたが、いよいよ2008年4月に開講されますね。この大学院の設立について、各方面からの反響はいかがでしたか?

一番多かった反応は「やっと始まりますね!」。待ち望まれていたんだなとひしひしと感じます。応募も想像以上にありまして、応募者の年齢層は20代からかなり上の年代まで。バックグラウンドも多岐に渡っています。


150年前には大学は先進的な場所だったと思いますが、現在は伝統的な場所ですね。メディアデザイン研究科はどんな大学院をめざし、これから10年先に具体的にどんなことが起きていれば成功だとお考えですか?

今までのように座って教えてもらう大学院にはならないのは確かです。デザイン、テクノロジ、マネジメント、ポリシーの4分野が大きな柱となりますが、学生たちはどこかの分野にトンガった人が集まってくるでしょう。でも、全体としてはそれぞれの分野が得意な人々が集まってバランスがとれた場になると思いますね。
よく「どんな大学院になるのか分からない」と言われますが、一番いいのは教員の面々を見ていただくことです。(教員紹介のページはこちら) さまざまなバックグラウンドの人が集まっていますから。
学生も教員も、あるいは企業も地域の人も参加して、一緒になって作っていく場所になると思います。大学という場にごちゃごちゃと集まって、とりあえずなにかやってみよう!という実験場のような役割を担っていきたいですね。

10年後には、想像もできない部分もありますが、私はポリシーを専門としているので、まずは我々が研究した分野の法律が制定されていると望ましいと思いますね。
また、ポップカルチャーのコンテンツの取引市場ができていたりしたら、それも成功と言えるでしょう。ポップカルチャーをすべて画像や動画などで保存しておくアーカイブが作れたりしたらスゴいと思いませんか? 例えばあるオタク青年の部屋のお宝を、全部デジタル化して検索できるようにする、とか。そして、「じゃあそれをどう利用する?」なんて話し合うのが大学の役割になる。そんな日もきっと遠くないですね。

 

三田のコンビニからおにぎりが消えた日

教授は子供向けのワークショップなどにも積極的に参加していらっしゃいますね。

「CANVAS」という団体の副理事長を務めています。これは「こども向け参加型創造・表現活動の全国普及・国際交流を推進するNPO法人」なんですが、要するに子供になんかいろいろ作ってもらおう、と。日本の小学生はとてもクールで素晴らしい表現力を持っていますよ。
今年6月30日、7月1日の2日間、慶應義塾大学デジタルメディア・コンテンツ統合研究機構と一緒に、三田キャンパスでクレイアニメなどを作るワークショップを開催したところ、ものすごい反響でした! 三田の歴史始まって以来じゃないかという数の小学生がキャンパスに押し寄せ、近所のコンビニからおにぎりがなくなって大騒ぎだったそうです。それだけ、子供に何かを作らせる活動が必要だと思う保護者も増えてきたということです。生まれたときからまわりにデジタル機器がある子たちですから、我々とは使いこなし方が違う。この子たちが将来の日本の新しい文化を創っていくんです。
インターネットが普及して10年。あと30年〜50年したら、インターネットはしっかり成熟したメディアに育っているでしょう。そして、その頃にはまた違う、今は予想もできないメディアができているのでしょうね。とても楽しみです。

 

インタビュー聞き手

創立150年記念事業室 プロジェクトディレクター 本間 浩一 / ライター 薗 美冬


プロフィール

中村伊知哉教授 中村 伊知哉 (なかむら いちや)
http://www.ichiya.org/
元・スタンフォード日本センター研究所長、現・慶應義塾大学デジタルメディア・コンテンツ統合研究機構特別研究教授。
2008年4月に開設される慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科の教授に就任予定。
専門分野: メディア政策、情報通信、デジタル知財、ポップカルチャー「ロックバンド「少年ナイフ」のディレクター、郵政省、MIT、スタンフォード日本センターを経て現職。著書に『デジタルのおもちゃ箱』(NTT出版)、『日本のポップパワー』(日本経済新聞社)等


蝶ネクタイの由来
トレードマークの蝶ネクタイは、郵政省時代に故小渕元首相から「キミ、蝶ネクタイが似合うんじゃない?」と声をかけられて以来愛用中だそう。
唯一通常のネクタイを締めるのは葬儀。黒い蝶ネクタイで参列したところ、式場関係者と間違われた経験が。


(関連団体)
慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科
http://www.kmd.keio.ac.jp/
慶應義塾大学デジタルメディア・コンテンツ統合研究機構
http://www.dmc.keio.ac.jp/
特定非営利活動法人CANVAS
http://www.canvas.ws/

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