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トップページ > 学問のすゝめ21 メルマガ > vol.9 牛島 利明

学問のすゝめ21 メルマガ

「学問のすゝめ21 メルマガ」では、現在の慶應義塾の「知」を発信するとともに、皆様とともに「学ぶ」楽しさを再発見するきっかけをご提供できればと考えています。

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特集「大学と地域社会との連携で生まれるもの」牛島利明教授

近年の大学には、教育・研究だけではなく、社会貢献や地域連携にも大きな期待が寄せられている。特に、都市の中で広大な敷地と多様な人材を有する大学が、地域に与える影響は極めて大きい。地域での信頼性を高め、大学と地域社会、双方による協生を促進するためにすべきことは何なのか、またそこから何が生まれるのか。
産業・企業と地域経済の歴史についての研究を専門とし、各種地域活動委員としての実績を持つ牛島教授に、お話を伺った。
(インタビュー:2008/5/29)


  ▲牛島利明教授からのショートメッセージ

< 目次 >


「銀玉広場」に、世界の人間関係が集約されている

2003年から始まった日吉活性化プロジェクト「ヒヨシエイジ」(注1)のアドバイザーを務めていらっしゃいます。これはどんな活動なのですか?

慶應の学生有志が、住民と一体となって日吉の街を盛り上げていこうというプロジェクトです。学生・教職員のみならず日吉の地域住民の方々に、普段は関わりのない「キャンパス」というフィールドを開放し、様々な年代の人々と交流を図ることを目指しています。最初は、単にある学生が「花火をバックに演奏がしたい」という自己表現の場として思いついたものでした。その後、その年に集まった学生がやりたいことを考えて、さまざまなイベントを企画しています。



今年で6回目を迎えるこの活動を通して、どんな成果を感じていらっしゃいますか?

最初私は「大学で花火なんか上げてどうするんだ?」と否定的だったんです。でも、縁があって相談を受けて、直接関わってみると、プラスの面もいろいろ見えてきました。
こういうイベントは準備が大変です。学生だけでは到底無理で、いろいろな人を巻き込んでいくことになります。そのプロセスにこそ、大きな価値があると感じました。一般社会の人と関わってプロジェクトを進めるというその経験自体が、学生にとってはものすごく貴重な体験です。
たとえば、日吉駅のコンコース、通称「銀玉広場」(注2)でバンドの演奏をするとします。学生からみれば「単なる広場」でも、実際にはいろいろな人が集まる公共性のある場です。ご協力を頂いている東急電鉄や東急百貨店からすれば、駅を利用する人の通行を妨げたり、企業イメージを壊されたり、周辺のお店に迷惑をかけては困ります。学生の企画は社会人の方から見れば穴だらけなので、当然、「この企画にはどういう意味があるのか」「このままでは安全管理上問題がある」などの指摘を受けることもあります。予期せぬさまざまなトラブルを経験して、学生は初めて「銀玉広場」がどんな意味を持つ場所なのを理解するわけです。そして、自分たちの要望を、相手の迷惑にならないように実現するにはどうしたらいいのかを考えるようになります。そうした経験が、学生たちを鍛えてくれるのです。



地域の方と共に活動することが、学生にとっての貴重な経験になるというお話ですが、それでは、地域の方からはどんな反応があるのでしょうか。

基本的には、学生にやる気があるなら協力しようというスタンスですね。最初は厳しい対応でも、「僕たちはこういうことがしたいんだ」と学生が熱意を持って粘っているうちに、ほとんどの方が親切に対応してくださいます。先方が率先して実現の道を探してくださることもあります。
また、地域の方たちの間でも、我々との活動を通して初めて、それまでなかった横の関係が生まれたりもします。一見無力に見える学生たちが、結果的にキューピット役になっているケースもあるわけです。
地域社会の人間関係は、上下のない、けれども利害の一致しないイコールパートナーです。世界の各国間の問題は、実はみんなそうだといえます。つまり、世界中の普遍的な人間関係が、あの広場に集約されているわけです。ローカルだけれども実はグローバルな問題につながっている。大げさなようですが、構造としては近い部分があると、私は思います。

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地域社会とのマッチングシステムを、大学自らが用意する必要性

大学と地域社会とが連携することに対して、どんなニーズやシーズ(種)があると思いますか?

多くの学生サークルはすごくがんばっているのに、残念なことに、とても内向きです。たとえば、100人単位のサークルなら、運営していくのには、相当の労力も思考力も使っているはずです。でも、それが社会にどんな影響を与えているかというと、何もない。同じ年代が集まって、いかに楽しくやるかだけで終わっています。その努力の方向性を少し変えるだけで、経験の深さや達成感はまったく違ってくるんです。その力を社会で発揮できる場があるということを、大学が学生たちに示してやりたいですね。
同時に、地域社会にもさまざまな才能や経験を持つ人がたくさんいます。あるいは、定年後、どう社会と関わっていけばいいのか戸惑っているシニア層に対して、地域に目を向けるチャンスを作り出せないか。そうした地域社会のニーズと大学のシーズとがうまく適合すれば、両者の潜在的な力が開花して、限りない可能性が生まれてくるはずだということを、これまでの活動を通して私は実感しています。



最近、産学連携という方面では、企業と大学を結びつけるシステムもかなり進んできているようです。では、大学と地域との連携という点での、マッチングシステムの現状はどうなのでしょうか?

今現在は、不足していますね。個々に結びついているケースはあっても、それを情報として束ねるシステムがないんです。大部分は、自分の持っているリソースを外でどう生かすか、見つけにくい状況にあるといえます。そこをうまくマッチングできる仕掛けがあれば、活躍の場ができてくるはずです。
この部分は利益が生まれにくいので、企業的価値は見出しにくいかもしれません。それなら、それを大学がやればいいし、実際にできると、私は思いますよ。そういうマッチングシステムがうまく機能すれば、大学付近の狭い地域にこだわらず、幅広いパートナーと出会える可能性も広がります。

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異質なものがシェイクされて、新しい価値が生まれる

やる気のある学生がいて、需要もある。でも出会いの場が少ない、ということですね。では、地域社会の人に大学へ目を向けてもらうにはどうしたらよいでしょうか。

一例として、創立150年事業の一環として開講された福澤諭吉記念文明塾の先行プログラムでは、講演者が話をするだけでなく、インタビュアーとの対話や参加者とのディスカッションを中心にするなど、お互いにやりとりできる点がとても新鮮です。大学関係者に限らず、各分野で先達として優れた経験を持つ方が講師となっていますが、内容は一方的な講演ではなく、もっと小さな場で語り合う、まさに塾のようなものを目指しているのだと思います。いっしょに何かを作り上げていく中で、関わった人が気づいたり、感じたりする、そういうものが大事なんですね。特にこの講座では、学生と社会人という違う世代が同じ場にいるという点もポイントです。普通は同じ場にいない異質な人々が混じり合うことによって、新しいものが生まれているんだと思います。



異質な人が混じり合うという点では、地域連携も同じかもしれませんね。

そうですね。本来は共存しない異質なものを混ぜ合わせてシェイクすることで、新しい価値が生まれるということです。大学自前の純粋なお酒を出して、飲みたい人は飲みに来なさいというだけではダメなんです。大学としての伝統は大事だけれど、普段は関係のない人々が集まってきて、シェイクされて、何が出来上がるかわからないという場も必要なんです。そうやって完成したカクテルは、不味いものもあるかもしれないけれど、今までにはない美味しいものができる可能性も秘めているわけです。
最初にお話したヒヨシエイジの活動においても、学生と住民の意見の食い違いをシェイクして、最終的に1つの目標を作り上げていくところに、大きな意義があるといえますね。世の中、利害関係が一致しない方がおもしろいんです。それを調整していく中で初めて質が高くなっていくのです。
特に、慶應大学のように都市型の大学では、大都会ならではの多種多様な人や場所と関わることになります。衝突する機会も多い分、より複雑なシェイクが行われ、完成度の高いカクテルが期待できるのではないでしょうか。



慶應大学には、今年、世代を超えた人々と学生が交流し、先導的な連携を目指す場として新しい施設「協生館」がオープンします。ここではどんなことが期待できそうでしょうか。

大学を地域に公開する場合、単に施設を貸すだけではダメなんです。大学の中にいる人と外から来た人とがお互いに関係を持って、シェイクされて初めて何かが生まれるんだと思います。そういう意味で、協生館の注目すべき点は、テーマを持った施設が用意され、そこに明確な「目的を持った人」がやってくるということです。一般の地域住民に漠然と声をかけるのはむずかしいですが、保育園なら子育て、フィットネスなら健康、というようにすでにテーマがあることで、その目的に沿ったシェイクが実現するきっかけになり得るのではないでしょうか。はっきりとした目的があるからこそ対立もあるだろうし、新しい何かが生まれる可能性も大きいと思いますよ。



最後に、「学問のすすめ」の中から、大学の地域連携に関するヒントを見つけるとしたら、どんなところが参考になりそうでしょうか。

『学問のすゝめ』の最後の17編は、「人間の交際は繁多にして、三、五尾の鮒が井中に日月を消するとは少しく趣を異にするものなり。人にして人を毛嫌いにするなかれ。」という文章で締めくくられています。人との関わり、人間交際をいかに積極的に進めていくかということが、学問にとっても社会のシーズにとっても重要だということです。
これが書かれた時代は、江戸時代の予定調和の社会が終わりをつげ、多様な価値観がシェイクされた状況でした。そこでは自分から新しいものを吸収していかないとダメだという、当時の人々に対しての強いメッセージだったわけです。その状況は、まさに大学生が社会に出ていくことにも通じます。その前の準備として、地域連携を通していろいろな利害関係を持つ人と交わること自体が学びであると、私は思います。
さらに、それは長年勤めていた会社を退職したシニア世代も同じだと思うんです。定年後所属組織がなくなって社会生性を持ちにくくなるという意味で、卒業した学生と似たような問題を抱えているわけです。その困惑した状況に対するひとつの答えを出す役割を、大学が積極的に担っていきたいですね。大学にはそれができる力があるはずですから。

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インタビュー聞き手

創立150年記念事業室 プロジェクトディレクター 本間 浩一 / ライター 永井 祐子


プロフィール

牛島利明教授 牛島 利明 (うしじま・としあき)
慶應義塾大学商学部教授
慶應義塾大学商学部商学研究科博士課程(単位取得退学)
専門は経済史、経営史、産業史。
教養研究センター、および福澤研究センター所員を兼務
「東横線80周年記念イベント実行委員会」「福祉のまち日吉ネットワーク会議」「横浜市港北区地域福祉保健計画推進連絡会」などの委員を務める。
「ヒヨシエイジ協議会」アドバイザー。日吉キャンパスでは、フィールドワークを中心とする総合教育セミナー「地域との対話」を担当。
牛島利明研究室


学びのタネ

まちづくりに参加してみませんか。地域活性化に関するシンポジウム開催

牛島利明教授がパネルディスカッションのコーディネーターをつとめられます。

慶應義塾創立150年記念・東横線開通80周年記念・目黒線日吉駅延伸記念
東横線沿線の活性化に向けて 東横線「鉄道とまちづくり」シンポジウム

日時:2008年7月9日(水) 17:30〜20:00
場所:慶應義塾大学 日吉キャンパス 来往舎シンポジウムスペース
東横線開通80周年を契機として、これまでの鉄道と沿線の発展、進化の過程を振り返りつつ、今後の東横線沿線地域における地域と鉄道その他多様な主体(大学・NPOなど)の連携による、更なる活性化へ向けたまちづくりやエリアマネジメントなどの活動のあり方に関する意見交換を行います。
(先着順/入場無料)


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