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トップページ > 学問のすゝめ21 メルマガ > vol.11 渡辺 賢治

学問のすゝめ21 メルマガ

「学問のすゝめ21 メルマガ」では、現在の慶應義塾の「知」を発信するとともに、皆様とともに「学ぶ」楽しさを再発見するきっかけをご提供できればと考えています。

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特集「『反対学』によって深くなる学び〜漢方医学と西洋医学〜」

 

「漢方医学」という言葉を聞いたとき、連想するイメージはなんだろうか。なにやら神秘的な雰囲気とともにこの言葉を思い浮かべる人も多いかもしれない。「実は漢方医学は我が国が世界に誇れる医療なのです」と語るのは慶應義塾大学医学部漢方医学センターの渡辺賢治准教授。漢方医学を知ることは、優れた日本の文化を見直すことにもつながると語る先生にお話を伺った。
(インタビュー:2008/7/28)


  ▲渡辺賢治准教授からのショートメッセージ

< 目次 >


漢方医学への興味が芽生えた少年時代

先生は内科医でいらっしゃいますが、専門は漢方医学とのことですね。この道に進まれたきっかけを教えてくださいますか?

子供の頃、少林寺拳法を習っていました。先生がすごい達人で、軽く蹴っただけで剣道の胴を割ってしまうような人だったんです。あるとき、その先生が私に指を動かして見せながら「どんなに科学が進歩しても、人間の体のように精巧な動きをするロボットはできない」とおっしゃったことに強く共感したのが、医学を志した第一歩です。その後、高校生のとき、父に勧められて読んだ雑誌が漢方医学の特集号で、大局的な見方をする漢方医学に惹かれ、医学部に進んで漢方を学ぼうと思いました。



ということは、高校生のときから漢方医を志していらっしゃったのですか。

そういうことになります。慶應義塾大学医学部に入学した頃、恩師に「漢方医学をやるならまず西洋医学を学びなさい」と言葉をかけられました。「反対学を学べ」、という意味だったのでしょう。例えれば、鯨の上にいたのでは、鯨の姿は分からないが、別の角度から見ればその姿がよく分かるというわけです。そこで内科に進み、その後留学などを経て、北里研究所東洋医学総合研究所に入りました。漢方医学の医師を志して医学部に入ってから17年経って、ようやく本格的に取り組むことになったのです。

 

日本独自にして世界に誇れる漢方医学

「漢方」というのは日本独特の呼び名だそうですね。

「漢方」という言葉は、江戸時代に我が国で作られた造語です。ですから中国に行って「漢方薬」と言っても通じません。中国から5〜6世紀に伝わった医学が、日本風に変遷して日本独特の医学になったものが漢方医学です。日本で使われていた江戸時代の医学が「蘭学」「蘭方」だったのに対し、それまでの独自の医学を区別する必要が生じ、「漢方」と命名した歴史があります。

現在の日本の医師は西洋医学を修得していなくてはなりません。漢方薬の処方をする医師は、医師免許を取得したうえで、漢方医学の勉強をして診療を行っているわけです。中国や韓国にも伝統医学はあります。しかし、医師免許制度が伝統医学と西洋医学に分かれています。両方の知識を兼ね備えた医師が診療するのは、日本だけということになります。



世界の医学界では、漢方医学に対する評価が高いと聞きます。

英語で「KAMPO MEDICINE」と言えば日本の伝統医療、と理解されているほど、海外では認められてきています。医学分野の世界的な文献検索データベースであるパブメドでもKAMPO MEDICINEという項目があるくらいです。そういった状況を見て国内でもやっと評価が高まってきているように思います。

現在の日本では、実に70%以上の医師が日常診療に漢方薬を使用しています。また、臨床研究も数多く発表されています。例えば大腸癌の西洋医学的な手術後の患者に大建中湯を用いたところ、入院日数が短縮できた、などの研究結果があります。しかし、漢方医学は日本が誇るべき医学だということ、また、西洋医学との組み合わせで用いた場合にもすばらしい効果を発揮できるということが、まだまだ知られていないと私は感じています。非常にもったいないことです。もっともっと世界にも発信しなければ、と思っています。



漢方医学だけでなく、伝統医学全体に対する認識も高まってきているのですか?

今までは西洋医学があって、それに入らないものが代替医療である、という捉えられ方だったのですが、最近は違ってきました。アメリカの食品医薬品局(FDA)でも国立衛生研究所(NIH)でも伝統医学は「ホールメディカルシステム(全人医療)」と定義されました。西洋医学と対等に体系だった医学として、他の代替医療とは区別されたのです。これは非常に大きな変化です。

統計によると、世界人口のうち約40億人は伝統医学のユーザーであり、西洋医学にアプローチできる人口を大きく上回っています。実は西洋医学は世界の中ではまだまだ十分にアクセスできる医学ではないのですね。このことは無視できない事実です。

 

2つの軸を使いこなせれば、医療はさらに発展できる

これまでお話を伺っていて、自分自身の勘違いにも気がつきました。漢方薬は日本独自のものなので、中国の薬を「本場の漢方薬」などというのは間違いなのですね。

「本場漢方薬ツアー」などというものは確かにありますね。日本人も勘違いしてありがたがっていることを反省する必要があるのではないでしょうか。日本には、独自に発展した漢方医学という独自の医学があり、それを簡易に服薬できるようにした漢方エキス製剤があり、すでに医療用として30年近い歴史を持っています。生薬を煎じる伝統的な方法で抽出した後、スプレードライ方式で粉末にするものです。生薬というのは、産地や収穫時期の違いなどから、まったく等しい品質を保つことは困難です。しかし厳しい基準をクリアした日本の方式であれば、安定した品質の製品を供給することができ、これであれば西洋医学の医師でも容易に取り入れることができます。世界には、このような技術を必要としているところは多いので、もっと貢献すべきなのではないでしょうか。



これからの世界の医療には、漢方医学の知識も必要になってくる、と。

私は内科でも糖尿病の専門なのですが、いい糖尿病の医師の条件はなんだと思いますか? 糖尿病の専門知識が高い、などと答えるのが一般的だと思うのですが、この質問に対する答えは「糖尿病以外の病気の知識をよく知っている」ということなんです。一つのことを極めるためには、その周辺のことをよく知らなくてはならないのです。さまざまな知識があればそれだけよい医療を提供できるようになるでしょうね。



漢方医学と西洋医学の「反対学」の関係にも似ていますね。今後の医療における漢方の役割についてのお考えを聞かせていただけますか?

漢方医学ではもともと病気に対して薬が決まるのではなく、あくまでも病気を持った人間に対して処方されます。生体は決して部品の組み合わせでできているのではなく、いろいろなものが絡み合っていて、非常に複雑です。今後、医療は生体を部分部分で見るのではなく、全体的に見る「ホリスティック」な見方へと変わっていくでしょう。現在、慶應の医学部のなかでも生体全体を捉える「システムズ・バイオロジー」の研究が盛んに行われています。データが蓄積されていけば、今後は「病気の未来予測」なども可能になっていくでしょう。

そのような動きのなかで、西洋医学と漢方医学はまったく融合するのではなく、2つの軸として螺旋状に発展していくのが理想です。お互いの長所を組み合わせて発展させていくのは日本の得意技です。組み合わせて、よりよい医療を実現していき、世界の保健に貢献していくことが今後の課題になってくると思います。日本がグローバル化しているとは言っても医療の世界での世界貢献はまだまだです。慶應の私の研究室には欧米を中心に世界中から多くの医師・医学生が漢方の勉強に短期・長期に滞在します。世界は漢方を求めているのです。先進医学で争うことも一つの方向ですが、他国にはない独自の医学で貢献していくことも一つの道だと思います。日本には伝統技術で優れているものがまだまだ沢山あります。実は私が漢方をやっているのはこうした日本の優れたものを次世代や次々世代に伝えていくことで何となく元気のなくなっている日本人に誇りを取り戻してほしいと願っているからです。

 

インタビュー聞き手

創立150年記念事業室 プロジェクトディレクター 本間 浩一 /ライター 薗 美冬


プロフィール

渡辺賢治准教授渡辺 賢治 (わたなべ けんじ)
慶應義塾大学医学部卒業。
慶應義塾大学医学部漢方医学センター センター長・准教授。
米国内科学会上級会員、日本内科学会専門医、日本東洋医学会理事・指導医。

 

【渡辺准教授のおすすめの本】
『漢方 2008』 (週刊朝日増刊号、2008/4/5号)
漢方医学についての知識が一般向けに分かりやすく掲載されている。読み物としても楽しめ、気軽に手に取れる。渡辺先生も「世界に広がる漢方」という記事に登場。漢方薬を処方できる医師のリストも。

『岩波書店「科学7」Vol.75 7月号 特集=漢方から現代医療を問う 』 (岩波書店、Vol.75 No.7 2005年発行)
漢方医学について、より詳しく学んでみたい方に。日本の漢方研究の第一人者が数多く寄稿している。

『「現代のエスプリ」 439号 21世紀の漢方医学』 (至文堂、慶應義塾大学病院漢方クリニック編集)
漢方の過去・現在・未来や現在の日本における実情、問題点まで幅広く扱っている。

 

サンタクルス病院協力事業

渡辺賢治准教授が、ブラジルのサンタクルス病院において漢方のセミナーや技術移転の問題等の交流をされました。このセミナーは、ブラジル移民100周年・慶應義塾創立150年記念国際シンポジウムに連動して開催されたものです。
詳細は下記URLをご覧ください。市民講座で使用したスライドを見ることができます。
http://keio150.jp/events/2008/20080816.html#kampo

 

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