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学問のすゝめ21 メルマガ

「学問のすゝめ21 メルマガ」では、現在の慶應義塾の「知」を発信するとともに、皆様とともに「学ぶ」楽しさを再発見するきっかけをご提供できればと考えています。

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特集「知っているようで知らないアメリカの政治を学び、日本の政治を考えてみる」

 

この秋、アメリカでは4年に一度の大統領選挙が行われる。オバマ対クリントンの民主党候補者争いから始まり、この選挙の行方には日本でも高い関心が寄せられている。そして日本でも、首相の辞意表明に端を発した政界の動きがあわただしい。そんな中、今われわれはどんな点に注目して政治とかかわればよいのか。アメリカ政治をご専門とされる久保教授にお話を伺った。
(インタビュー:2008/9/8)


  ▲久保文明教授からのショートメッセージ

< 目次 >


いきなり近代から始まった、アメリカという国

アメリカ政治をご専門に選ばれたのは、どういう経緯だったのでしょうか。

東京大学の法学部に入ったのですが、法律よりも天下国家や古今東西の歴史を論じる政治科目に興味を持ちました。その中でも特にアメリカという国にひかれたのは、ヨーロッパのように封建主義や絶対主義の時代を経ずに、いきなり近代から始まったという、その特異性に引きつけられたからです。



今回、アメリカの共和党・民主党の党大会をごらんになってきたそうですね。直接その場に参加されたご感想はいかがですか?

参加している人たちが実に楽しそうでしたね。党大会というのは4日間ずっと演説ばかりが続くのですが、彼らはそれをちゃんと聴いています。アメリカ帰りの福澤も演説の大切さを説いていますが、日本とは演説を聴くカルチャーが違うのだと感じます。

参加している人にもずいぶん違いがありますね。民主党は若い人や女性、黒人、アジア系、ヒスパニック系、インディアン系などいろいろな人がいます。一方の共和党は、7〜8割は男性で、圧倒的に白人が多い。それもダークスーツにネクタイといった感じの人がほとんどです。



今回の選挙では「CHANGE」というスローガンが使われています。アメリカ人は何を変えようとしているのでしょうか?

アメリカの世論調査によると、「今アメリカは悪い方向に向かっている」と答える国民が80%ぐらいいるそうです。国内では、サブプライムローンを契機に経済が悪化し、失業率も上がっています。国外でもうまくいかない戦争を抱えている。イラク戦争ではアメリカ人だけで4000人以上の死者を出し、アフガニスタンも展望が開けない。そんな中で、今ブッシュ大統領の支持率は30%にまで落ち込んでいます。日本人が思っている以上に、アメリカ人は自分たちの国をネガティブに評価しているのです。

そんな背景があって、民主党のオバマはブッシュ政権の8年間が失敗であるとし、政策の方向性を全体的に変えようとしています。マケインの方もこうした逆風を感じ、共和党の間違いを認めることで批判する姿勢を見せて、変化を訴えています。とはいえ、マケインの場合は政策全般を変えるのではなく、ムダや腐敗をなくすという政治改革的な部分にとどまっています。同じ「CHANGE」でも、両者の間には、変える中身に相当違いがあるといえます。

 

日米の政治制度は、大きく違う点がたくさんある

党大会には非常に多くの人が参加しているようですが、日本と比べて、政治への関心が高いのでしょうか。

投票率そのものは日本の方が高いですよ。日本の総選挙は65〜70%ぐらいですが、アメリカの大統領選挙はせいぜい55〜60%がぐらいです。中間選挙に至っては30%台ということもあるぐらいです。アメリカでは所得や学歴によって、投票率が著しく異なるという現状があります。日本はそういう相関性はあまりないですよね。そんな事情もあって、アメリカではまったく無関心な人もいる一方で、とても熱心な人もたくさんいるので、全体意識としての関心は高いといえるかもしれません。



アメリカの共和党や民主党の党員というのは、どのぐらいいるのでしょうか?

党員の数自体はものすごく多いですよ。ただし、ここで重要なのは、アメリカと日本では党員の概念が大きく異なることです。日本で党員になるのは、何かしらの利害関係や知人友人のしがらみ、あるいは強い信念がある人などで、国民全体からすると少数派です。そして党員は党費を払って政党に献身する仕組みになっています。

アメリカには、このような党員の仕組みはありません。アメリカには有権者登録制度というのがあって、選挙権をもらうためには自分から役所に届けを出す必要があります。このときに、住所や署名と同時に支持する政党を選ぶ欄があるのです。つまり、ここで共和党を選んだ人が共和党員、民主党を選べば民主党員というわけです。実際の割合は、有権者登録をする人が全体の8割で、そのうち民主、共和、無所属がほぼ1/3ずつとなっています。この党員たちには党費納入の義務もありません。

もうひとつ日本と大きく違うのは、本選挙に立候補する公認候補を、党員による予備選挙で決めるということです。日本の公認候補は党の指導部が決めます。いわゆる郵政選挙が顕著な例ですね。郵政民営化に反対する人は自民党候補として公認されませんでした。ところが、アメリカでは予備選挙に勝てば誰でも公認候補になれるのです。これは州ごとの法律ではっきりと決められています。ですから、政党の党首といえど、それほどの力は持っておらず、ある意味民主主義を徹底した形ではないかと思います。



当選後の議会においても、日本のような党議拘束などはないのでしょうか?

ほとんどありません。党の方針に反対する人がいても、除名や公認取り消しなどのペナルティが行えないからです。そのためアメリカ議会の投票は、民主党員の80%が賛成で20%が反対、共和党の30%が賛成で70%が反対、というように入り乱れることがよくあります。日本のように与党だから、多数派だから、全部可決されるというわけにはいきません。現在、議会は民主党多数なので、共和党のブッシュ政権にとって、やりにくいことは事実ですが、多少妥協すればなんとかなります。そういう意味で、昨今の日本のねじれ国会のような状態とは多少異なります。



同じ政党でも、かなりいろいろな考えの人が存在しうるということですね。

そもそもアメリカという国は、日本に比べると宗教も人種も多様な国です。同質社会といわれる日本で政党がたくさんあるのに、なぜアメリカには2つの政党しかないのか。それは、アメリカでは1つの政党の中に多様な勢力を組み込んでいるからです。これは先ほども言ったように、予備選挙で勝ちさえすれば、少数派、非主流派であっても、誰も追い出すことができないためです。



同じような民主主義国家といっても、日本とアメリカはずいぶん違うのですね。

選挙制度や政党のあり方だけでなく、官僚のあり方においても異なります。アメリカでは政権交代と同時に局長以上3000人ぐらいの人が同時に刷新されます。思い切った大きな改革が可能な一方で、4年ごと、あるいは8年ごとに新しい人が外から入ってくるわけですから、朝令暮改的な政策の揺れがあるともいわれています。

その点日本では、政権が変わっても役所の官僚はそのままです。日本の官僚は役所にずっといる人たちですから、知識や経験が継承されていきます。反面、一度決めた政策は簡単に変更できない弊害もあります。薬害エイズの例のように、先輩が犯したミスをみんなでかばい合ったり、40年前に決まったダムの計画すら覆すことができなかったりするわけです。

 

違う制度を知ることで、相対化した広い視野が持てる

どちらの制度がより優れているのでしょうか?

一長一短があるので、どちらがいいとは簡単には言えません。しかし、違う国の制度のあり方を知ることは大きな意味のあることだと思います。自分の国のことしか知らないと、それしかないと思い込んでしまいますが、アメリカに限らずヨーロッパやアジアを含めて、外を見てみると、自分が思いもしないような制度が運用されていたりします。最初は受け入れがたいかもしれませんが、よく観察してみると、それなりにうまく機能している点も見えてきます。

そうやって外の世界を知ることで、自分が慣れ親しんだ制度を広い視野で相対化して見られるようになります。その結果、今までの制度にしがみつく必要はないと気づくかもしれないし、あるいは、いい制度なので大事にしたほうがいいと再認識するかもしれない。いろいろな形で考える余地が出てくるのです。



福澤諭吉も外国を見ることの必要性を説いていましたね。

もちろんあの当時は日本は諸外国に遅れをとっていて、今とはだいぶ違います。それでも、外の世界を見て、違う制度、違う文明を見てこそ、自分たちのいいところも悪いところも見えてくるということは、時代が下っても変わらないと思います。

現代の日本では、政治のニュースも、音楽や映画などの文化も、アメリカの情報はたくさん入ってきています。それゆえに日本人は、アメリカのことはなんでも知っていると錯覚しがちですが、実はよく知らないことがたくさんあります。たとえば、90%以上の人が神を信じているというアメリカでは、妊娠中絶や進化論を学校で教えることの是非などが、政治の重要な争点になります。こういうことは、日本人からすると想像もつかないでしょう。

ある調査によると、「アメリカ大統領選挙に関心がある」と答えたのは、アメリカ人でも80%なのに、日本人は82%もいたそうです。これは世界でも突出して高い結果です。せっかく関心を持ったこのこの機会に、少し掘り下げていろいろ知ってほしいと思います。アメリカの政治について学ぶことは、今後の日本の政治を考える上でも、おおいに役立つと思いますよ。

 

インタビュー聞き手

創立150年記念事業室 プロジェクトディレクター 本間 浩一 /ライター 永井 祐子


プロフィール

久保文明教授久保 文明 (くぼ ふみあき)
東京大学法学部卒業後、コ−ネル大学・ジョンズホプキンズ大学などの客員研究員、筑波大学助教授、慶應義塾大学教授を経て、現在は東京大学教授(法学部・法学政治学研究科)、慶應義塾大学客員教授(法学部)。

 

【久保教授おすすめの本】
『アメリカのデモクラシー』(岩波文庫、トクヴィル著)
フランスの貴族が19世紀初頭に当時新興の民主主義国家であったアメリカを旅して書いた本。日本には福澤が最初に紹介したとされる。

『アメリカ外交の諸潮流−リベラルから保守まで』(日本国際問題研究所、2007年 久保文明編)
久保教授の近著。介入と孤立の間で激しく揺れるアメリカ外交を理解するために、それを方向づける国内的な要因に着目してまとめられている。

『アメリカの政治』(弘文堂、2005年 久保文明編)
『アメリカ政治』(有斐閣、2006年 久保文明他著)
アメリカの政治の全体像がつかめる入門書。共に久保教授の授業で教科書としても使われている。

 

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