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トップページ > 学問のすゝめ21 メルマガ > vol.18 成川輝真

学問のすゝめ21 メルマガ

「学問のすゝめ21 メルマガ」では、現在の慶應義塾の「知」を発信するとともに、皆様とともに「学ぶ」楽しさを再発見するきっかけをご提供できればと考えています。

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「どんなに複雑に見えるシステムも、本質はシンプルである」と信じています。

 

19世紀前半まで人々は、鳥に倣って翼を大きく羽ばたかせることで空を飛ぼうとしていた。しかしある時、羽を動かさずとも滑空している鳥がいることに気がつき、それを見本にしたことでグライダーが誕生し、今日の飛行機の技術につながった。この大きな技術革新に対し、「複雑なものに答えを見つけるのではなく、より単純化された原理にこそ飛行の本質があることに気がついたことが、最大のポイント。そこには大きな発想の転換があったはず」と語るのは、環境共生・安全システムデザイン教育研究センターの成川助教。
成川助教の、人間の歩行をセンサーやモーターを一切使わずに再現した「二足歩行ロボット」も同様の発想から誕生した。「二足歩行ロボット」と従来からある人型ロボットの違いや、複雑な動きをシンプルに再現することで得られる可能性についてお話を伺った。
(インタビュー:2009/4/27)


  ▲成川輝真助教からのショートメッセージ

< 目次 >


■二足歩行実験動画  http://homepage3.nifty.com/narukawa/videos.html

モーターもセンサーも無い。それでも歩くことができる。
「二足歩行ロボット」から分かること。

先生がお作りになった「二足歩行ロボット」の映像を拝見しました。動力もセンサーも使っていないのに、本当に人が歩いているよう見え、非常に驚いたのですが、従来のロボットと二足歩行ロボットの違いを教えてください。

従来の人型ロボットは、常に安定状態を保とうとします。まずは人の形に似せてしっかりと自立した型をつくり、その上で、人間らしく動かすためにはどうコントロールをしたら良いか、という視点で開発されてきました。その結果、全ての関節に制御装置をつけ、たくさんのモーターを使っています。制御の技術の進歩に伴い、昔のものに比べるとかなり自然な動きをするようになってきていますが、それでもまだ、ぎこちなさが感じられます。消費エネルギーは大量で、人間の10倍以上であると報告されています。

一方、私の二足歩行ロボットは、ご覧いただいたようにとても単純な構造をしています。しかし坂道の上から勢いをつけてあげると、2本の足を振り子のように動かして歩きだします。これは受動歩行(*)と呼ばれるもので、従来のロボットとの大きな違いは、常に安定性を保ちながら歩くようにはなっていないことです。二足ロボットの特徴である倒立した振り子のような不安定性を利用しています。ただし、歩行全体の一連の動きは安定していることが特徴です。またこの時に使用するエネルギーは坂道を歩き下ることで得られる重力によるエネルギーのみです。外部のエネルギーをうまく利用していますから、環境にやさしいロボットと言うこともできます。



動いていると安定しているというのは、ある運動をすることによって、安定状態が維持できるということでしょうか。自転車と同じですね。
ところで、なぜ、このような研究をはじめられたのですか?

私の専門は「制御」です。動くものをどのように制御するのかを中心に研究しています。大学3年の時の授業で見た振り子の動きを制御する実験映像に魅せられ、吉田先生の研究室を選びました。二足歩行ロボットの研究を始めたのも、吉田先生のアドバイスです。

私たち人間は、何も考えずに自然に歩いているようですが、筋肉や神経などいろいろなシステムが絡み合っています。その仕組みは非常に複雑で、まだほとんど分かっていません。それを解明するアプローチとして、筋肉や神経などの細かな動きを測定するという、生物学的で、よりミクロな視点から捉える方法があります。一方で、よりマクロな視点から動き全体を捉えることもできます。私が選んだのは後者です。つまり、人間を物理的に1つの物体として捉え、どのように動いているのかを、できるだけシンプルなシステムで再現することを目指しています。



 

シンプルにすれば、本質が見えてくる。

「動きの本質を探す」ということでしょうか。

そうです。一見複雑そうに見える人間の動きも、複雑に見せている要素をどんどんそぎ落として、シンプルなものに置き換えて再現していくと、これだけあれば動かせる、という最小限の動きが見つかるはずです。このような研究を積み重ねていくことで、いずれは人間の全ての動きを説明できる本質的な仕組みが解明できるはず、と考えているのです。



先生のお話は、それまで、様々な運動を説明するのに理屈に理屈を重ねていた物理学の世界を、たった3つの法則で説明することに成功したニュートンのアプローチ](※)と似ているように感じました。人間の動きの中に原理原則を見出そうということでよいでしょうか。

そのとおりです。昔の人々は、物体の動き1つ1つに様々な理由をつけて理解しようとしていました。しかし、ニュートンの運動法則を用いることで十分な精度で動きを説明できてしまいましたよね。このように人間の動きも、いくつかのシンプルな仕組みで全てを説明したいのです。そうすることで、従来と違う人間の都合を最優先した道具を作ることができるのではないかと思っています。



従来とは違う道具とは、どのようなものでしょうか?

例えば足の不自由な方をアシストする方法を考えてみましょう。今は松葉杖や車椅子がありますね。松葉杖は慣れるまで大変ですし、体力も必要です。車椅子は広い道路ならいいですが、家の中での使用はかなり制限されます。どちらも道具優先の設計で、人間が道具の都合にあわせているため、私たちにとって使いにくいものになっていると思います。 私の研究の結果、人間の動きがシンプルな仕組みで説明できれば、人間の都合を優先させた歩行アシストのようなものも作れるのではないかと期待しています。エネルギーの消費量が抑えられれば小型化・軽量化できます。ですから、扱いやすいですし、外出時はもちろん、家の中や階段でも便利なものになるはずです。

また移動手段も同様です。今は車や電車など、箱があって、そこに椅子を取り付けた形をしています。飛行機や新幹線など、多くの人を短時間に輸送する手段は発展しましたが、普通の人が日常的に出歩く範囲で使われる交通手段は、足(歩き)か自転車がほとんどです。人間の本質的な動きが解明されれば、このような移動手段も大きく変化するかもしれません。もしかすると、人間の都合を優先させた、まだ誰も見たことのない新しいタイプの移動体が誕生する可能性もあるのです。



 

インタビューを終えて

一般に研究といってもその対象は幅広く、アプローチ方法をはじめ、解決の糸口は際限ありません。今回ご登場いただいた成川先生は、若き研究者ではありましたが、すでに研究に対する考え方の核となる『信念』をお持ちでした。先生のお話をお聞きしながら、研究者として自分なりの羅針盤を手に入れることができた方が、真の意味で探求者になりえるのかもしれない・・・そんなことを感じました。




 

インタビュー聞き手

創立150年記念事業室 プロジェクトディレクター 本間 浩一 / ライター 粕谷 知美


プロフィール

成川 輝真 助教成川 輝真(なるかわてるまさ)
慶應義塾大学 
環境共生・安全システムデザイン教育研究センター 助教


*受動歩行
同様の仕組みで動くおもちゃもある。学術的にはMcGeerが1990年に発表した論文をきっかけに世界中で研究されている。


※ニュートン力学
アイザック・ニュートンが1687年に、著書『自然哲学の数学的諸原理』(略称『プリンキピア(Principia)』)で発表した。これにより、世界のありとあらゆる動きが「慣性の法則」「運動方程式」「作用・反作用の法則」という3つの法則で説明できるようになった。

 

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